
沈黙は金にあらず
むかし、むかし、あるところにお饅頭の大好きなおじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある日のことです。二人は、近所の人からいただいたお饅頭を家で食べていました。
「おいしいね。ばあさん。」とおじいさん。
「おいしいね。じいさん。」とおばあさん。
二人は、幸せそうに次から次と食べて、とうとう最後の一個になってしまいました。
おじいさんが手を伸ばすと、おばあさんが手を伸ばします。おばあさんが手を伸ばすと、おじいさんが手を伸ばします
「遊びで勝った方が、明日饅頭を食べられることにしよう。明日まで黙っていられた方が勝じゃ。声を出したら負けじゃ。いいかい。ばあさん。」とおじいさんが言いました。
「いいですよ。じいさん。」
ふたりは、約束すると、最後のお饅頭を棚の上に置いて、床につきました。
その晩のことです。泥棒が入りました。二人は、気がつきましたが、じっとしていました。声を出したら、お饅頭が食べられなくなるからです。
「こいつはうまそうな饅頭だ。」と泥棒は言うと、手に持って口に入れようとしました。
「どろぼう!」ついにおばあさんが声を出してしまいました。
「しめた。わしの物だ。饅頭が食えるぞ。」とおじいさん。
泥棒は、たいそう驚いて、饅頭を口にくわえたまま逃げていきました。(2004.1.29)