厨坊さん

house (1)むかし、むかし、お金持ちの家に男の子が生まれました。しばらくは幸せに暮らしていましたが、3歳の時、母親が病気になり亡くなってしまいました。父親はしばらく一人でいましたが、まもなく再婚しました。男の子は継母に育てられることになりました。
十二年が過ぎ、父親は遠く離れた所で数人の人と商いをすることにしました。
ある日、妻と息子を呼び寄せると、これから旅に出て一年後に戻ってくると話しました。その間、親子仲良く助け合うように言いました。
しかし、父親が家からいなくなると、母親は子供を召使いのように扱い始めました。朝早く起こすと冷たくこう言いました。
「早く薪を集めておいで。」と。
それが済むと田んぼや畑の仕事を下男と一緒に働かせました。男の子は一言の不平も言わず、一日中働き続けました。身なりは汚くなり、髪の毛も鳥の巣のようになってしまいました。着物はぼろぼろになり、擦り切れてしまいました。
父親が家を出てから6ヶ月あまりが経った頃、手紙が母親のところに届きました。
『仕事の方も順調に行き、今帰路にある。おまえと息子に会うのを楽しみにしている。ついては今月の末日、港に迎えにきてもらいたし。』
さて、その朝継母は父親が港に到着するので迎えに行くように命じました。息子は心うきうき母親に言いました。
「お父さんもきっと喜ぶでしょう。一緒に行きましょう。」
すると母親は、こう言いました。
「一人で行きなさい。私は遅れて行きます。髪結は時間がかかるのよ。」
港に着くと、息子は父親の乗った船を待ちました。ようやく遠くに父親の船が見えてきました。甲板の人ごみの中に父親を見つけると、息子は大きな声で叫びました。どんなに父親が恋しかったことか。話したいことは山ほどありました。
「お父さん、お帰りなさい。」
父親は息子のあまりのみすぼらしさに、こう言いました。
「おまえ、どうしてそんなに汚いのだ。わしの息子にはとても見えないぞ。」
「お父さんがお母さんの手伝いをするように言いましたので、僕は毎日お母さんのお手伝いを一生懸命しました。だからこんなに汚れてしまいました。」
「おまえはいい子だったね。ところでお母さんはどこだい。」
「お母さんは髪が結い終わったら来ると申してました。もうしばらくだと思います。」
父親と息子はしばらく待ちましたが、母親は現れませんでした。
その頃、母親は布団の中で痛みに苦しんでいました。出かけようとした時に大きな石につまずいて、打ち所が悪く肢の骨を折ってしまったのです。布団の中でうなっている妻を目にして夫は驚きました。
「一体どうしたんだ。大丈夫か。」
いじわるな母親は、
「あなたの息子がこんな目にあわせたのです。人でなしです。私を激しく蹴って足の骨が折れてしまいました。どうして私にこんなひどい事をしたのでしょう。痛いよ。」と訴えました。
父親は息子同様、妻も愛していました。妻の話を聞いて、自分のいない間にとんでもないことが起きていたと悟りました。難しい選択をしなければなりません。
父親は息子を前に、こう言いました。
「残念ながら、こんなひどい事をした以上おまえをここにおいておくわけにはいかない。すぐにここを出て行きなさい。」
息子が口を開こうとすると、さらに
「だめだ。何も言うな。言い訳無用じゃ。」と制しました。
父親は心から息子をいとおしく思いましたが、悲しい選択をしなければなりませんでした。これを機に世の中を見てきて欲しいと願いました。馬屋の名馬と、最高の鞍と、最高のきものを与えると、ただちに旅立ちを命じました。

boy (2)少年は馬の背に飛び乗ると父親に「さよなら」を言うことなく旅立ちました。もっとも彼の心の中は悲しみに打ち砕かれそうではありましたが。
南の方へ、進んで行くと、まもなく大きな川に出くわしました。馬はそこで立ち止まってしまいました。少年は川を眺めて、この馬ならきっと渉れると思い、馬の尻をむちでたたいて馬を流れの方に向かわせました。すると驚いたことに馬は川を一気に飛び越えたのです。
次に深い森にやってくると、少年は再び馬にむちを加え、「丘を飛び越えろ」と叫びました。
馬はいななくと一気に丘を飛び越えました。確かに、この馬はお父さんの名馬だと少年は思いました。そしてもちろん父親のことも。
お父さんとの思い出は子供のころの思い出です。お父さんは自分を何とかわいがってくれたことでしょう。だからこの名馬を与えてくれたのです。胸が迫る思いで、涙があふれてきました。お父さんも自分のことを心配しているかもしれません。その時、馬がいななきました。お父さんが自分を励ましているように思えました。これからは、どんな困難に出会っても挫けないで、一人で乗り越えていこうと固く心に決めました。
しばらく行くと、畑で働いているおじいさんに出会いました。
「すみませんが、この辺で仕事のできる所はないでしょうか。」とたずねました。
「そうだな。あの地主の所だな。大金持ちで、大勢の人を使っている。しかし、そんないい馬といい着物では、仕事を探している者には見えんな。」とおじいさんは応えました。
「あの、どうしても働きたいのです。それでは、どうでしょう。おじいさんの着物と私の着物を交換してくれないでしょうか。」
おじいさんは、少年の豪華な着物などご免です。
「お前さんの着物などいらねえ。そんな着物じゃ働らけねえ。どうしてもわしの着物が欲しいと言うんなら、お前にやるよ。」
「ありがとうございます。それでは、ご迷惑でなければ、しばらくお借りしようと思います。はなはだご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、私の着物と馬の鞍をしまっておく入れ物はないでしょうか。」
おじいさんは少年を家に連れて行くと、入れ物と作業着を貸してやりました。少年は農作業着に着替えると、着物と鞍を入れ物にしまって、馬は竹やぶに放してやりました。
「私が戻ってくるまでここにいなさい。」と馬に言いました.
そして一番大きな家を探して歩いて行きました。途中、お供を連れた人に出会いました。その人こそ目指す人に違いないと思い、心から頼みました。
「お願いがあります。私は仕事を頂ける人を探しております。あなた様の所で働かせて下さい。お許し願えるならば、一生懸命がんばります。」
その人は少年をちらっと見ると、微笑んで言いました。
「ついて来なさい。」
(3)
kamado 翌日、地主さんは少年に焚き木を集めてくるように言いました。斧を渡して、
「できるだけ沢山焚き木を集めてきなさい。」と言いました。
少年は地主さんの森へ焚き木を集めに出かけました。家でお父さんがいない間、母親も焚き木を集めに行かせましたから、なたを使うのには慣れていましたが、斧を使うのは初めてでした。
まして斧はとても重くて思うようにはいきません。すぐにあきらめてしまいました。
そしてあの日のことが思い出されました。外での仕事が終わると、母親は台所仕事をさせたのです。料理を作るのはとても面白いことがわかってきました。料理を作るのが楽しみになり、決して文句は言いませんでした。
「そうだ。僕は料理が好きなんだ。」と気がつきました。自分は料理人として主人のためにつくそうと思いました。
少年は主人に近づくとこう言いました。
「一生懸命働ます、と言いました。その気持ちは今も変わりません。私を厨房に連れて行ってください。後悔はさせません。ご主人の好きな料理を何でもおつくりいたします。」
主人は、こんな風に自分に話しかけてきた下男は今までいませんでしたので、ちょっと驚いたものの、、おおらかな気持ちで少年の願いを受け入れました。厨房を見渡すと、少年は主人にお願いしました。
「私にお手伝いさんを数人貸してもらえないでしょうか。一日だけで結構です。かまどを作りたいと考えております。」
地主さんは再び願いを聞いてやりました。数人の男たちが、少年の指示を受けて働き始めました。少年は自分の理想とするかまどの作り方を男たちに説明しました。厨房の小なべと大なべの数を調べて、それぞれのかまどの大きさを割り出しました。そしてついに七つのかまどが出来あがり、少年が料理がしやすいように並べられました。一つは小なべ用に、あるものは大なべ用にと。
かまどが出来あがり、少年の顔は喜びで輝いていました。料理の思いでいっぱいでした。主人とその家族はもちろん家で働いているみんなに毎食料理を出したいと思いました。
作った料理が全部からにになるのを見るとこの上なく幸せでした。
ある者がこう言いました。
「こんなうまいもの初めてだ。」
またこういう者もいました。
「ご主人と同じものを食べられるなんて何と幸せなことだろう。」
毎日おいしい食事が食べられるので、下男たちは前にもまして主人のために働きました。長者さんも少年には大満足でした。
地主さんは少年にこう言いました。
「お前は素晴らしい子だ。好きなだけここにいて私のために働いておくれ。ところで、明日、娘と一緒に芝居を観に行く予定じゃ。いつもより早くお昼にしたい。」と。
その日お昼を食べ終わると、長者さんは少年に言いました。
「芝居はとても面白いぞ。よかったらお前も一緒にいかないか。」
「ありがとうございます。でも今日は、私が三歳の時になくなった母親の十三回忌にあたります。今日はここにいて母親を偲びたいと思っております。」
主人はいたく感動して言いました。
「わかった。ここにいてお母さんを偲んでやりなさい。」
少年は、主人を見送ると、着物と鞍がしまってあるおじいさんの家に急ぎました。体をきれいにし、着物に着替えると、竹やぶで草を食べている馬を呼び戻しました。馬に鞍をつけると、馬にまたがり、むち打って、こう言いました。
「町の芝居小屋まで飛べ!」
馬は空高く飛び上がると芝居小屋まで飛んでいきました。人々は上空を見上げました。神様が空から降りてきたと思ったのです。手を合わせて拝みました。でも、長者の娘は父親にささやきました。
「あれは、神様じゃなくて家の厨房で働いている少年よ。」
「馬鹿なことを言うもんではない。黙って拝みなさい。」と父親はとがめました。
娘はにこっと笑うと、おとなしく手を合わせました。
(4)
芝居が終わる頃には、少年は厨房に戻っていました。そして仕事場の食事台にもたれてうたた寝をしているふりをしました。まもなく主人が帰ってくると興奮した面持ちで彼に言いました。
「驚くことがあったぞ。芝居小屋の前で,何と神様が天から降りてこられて、みんなで祈りを捧げたのじゃ。」
「本当ですか。私もお供すればよかったと思います。」と少年は言いました。
一ヶ月後、主人は少年にまた言いました。
「娘と芝居を見に行くので、またいつもより早くお昼を 用意しておくれ。今度は一緒に行くかな。」
「誠に申し訳ございません。実は、今日は私のおじいさんの命日にあたります。ここで静かにお祈りしていたいと思います。」と少年は答えました。
主人を見送ると、急いで老人の家に向かいました。体をきれいにすると、着物に着替え、馬を呼び戻しました。馬に鞍をつけて、馬に飛び乗ろうとしたその時です。何と長者の娘がニコッと笑って目の前に立っているではありませんか。娘には全てお見通しでした。彼女の腰をつかむと馬に乗せ、自分も彼女の後ろに飛び乗りました。馬のしりに鞭を入れると、叫びました。
「芝居小屋まで飛べ。」
馬は空高く飛び上がると、芝居小屋に飛んでいきました。人々は空を見上げました。今度は神様が奥様を連れて天から降りてきたのだと思いました。みんな神様とその奥様に手を合わせました。
芝居が終わる頃には、少年は戻っていました。作業着に着替えて台所で働いているふりをしました。まもなく主人は戻ってくると興奮した声で少年に言いました。
「信じられるか。今度は神様が奥様をつれて来られたんじゃ。本当に一緒に来るべきだったぞ。」
こんな話をしている時です。二人は娘の叫び声を聞きました。父親は娘の部屋に駆け込みました。
「お腹がいたい。」顔色も悪く、父親は心配して娘に言いました。
「医者を呼んでこようか。」
「医者は結構ですから、巫女を呼んでください。」
父親はさっそく二人の巫女を呼んでこさせると娘の病気と未来を占ってもらいました。一人はこう言いました。
「これは前世のたたりに違いない。」
しかしもう一人はこんなことを言いました。
「これはたたりではなく、その・・・ もし夫にふさわしい人が見つかれば、よくなります。」
そこで父親はさっそく全ての下男を部屋に呼び寄せました。ただ、少年は台所から抜け出し老人の家に向かいました。
父親は娘に尋ねました。
「おまえもそろそろ好きな人を見つけてもいい年頃だ。この中にお前が夫としてふさわしいと思う者がいればいいのだが。どうかな。」
しかし、娘は、一言もしゃべらず首を振りました。ちょうどその時です。馬のいななき声が聞こえました。娘はあの人が迎えに来たと思いました。彼女が入り口を開けると、そこには見事な着物をきた馬にまたがったあの少年がいました。
「お父様。この人こそ私の理想とする夫です。」と娘は言いました。
言うまでもなく、二人はそれは、それは豪勢な婚礼の宴を持ちました。そして2ヶ月あまりが過ぎた頃、二人は申し分ない夫婦となり長者とともに幸せな暮らしを送っていました。その頃、夫は里の父親のことを思い始めました。二人は里帰りのことを話し合い、二人で行くことになりました。彼はそのことを舅に話し、二日の休みを申し出ました。

(5)
young lady 二人は里帰りの準備に気持ちがうきうきしていました。ところが、旅立とうというまさにその朝のことです。妻の体調がおかしくなりました。吐き出しそうになったのです。夫はたいそう心配して、医者を呼んでもらいました。医者は妻を入念に診察すると、夫に言いました。
「悪い所はどこもない。ちょっとしたつわりですな。妊娠2ヶ月というところですかな。」
二人にとってはそれはうれしい驚きでありました。
「二人で一緒に里帰りして結婚の報告をしたかったが、今が一番大事なときだから、お前は家にいた方がいいな。いつか赤ん坊を抱いて行けるだろう。自分たちに子供ができると考えるだけでもうれしくなるな。」と夫は妻に話しました。
「はい、その通りです。あなたが戻ってくるのをここで待っております。でも旅のことが心配です。2日の暇しかありません。いい考えがあります。近道をしたらいかがでしょうか。」と妻は、地図を描きながら、その道を夫に話しました。
「ここに険しい山があります。ここを回って行くと、時間がもったいないと思います。あの素晴らしい馬に、山を飛び越えるように言ってください。じきに山のふもとに着くことでしょう。でも、ちょっと気になることがあります。
今は秋の真っ只中です。道沿いには葡萄がたわわになっていることと思います。山葡萄のように見えるので貴方の目を引くことと思いますが、決して取っても食べてもいけません。
いいですか。一粒でも食べたら、たちまち眠ってしまいます。少なくても1週間は寝たままでいることになるでしょう。いいですか、絶対触ってはいけませんよ。それでは、ご両親によろしくお伝え下さい。旅の安全をお祈りいたします。」
お土産を携え、彼は一人で旅立ちました。妻のお腹に子供がいることがわかった今、彼は妻のことはもう心配ではありませんでした。
妻から言われたとおりに道を進んで行きました。馬の背に乗り山を飛び越え、山のふもとに降り立ち、そして沢山の葡萄を目にしました。
どうでしょう。一目葡萄を見ただけで、妻の忠告をすっかり忘れてしまいました。代わりに、自分の子供の時の葡萄、一日中外で遊んでいた頃のことを思い出しました。
「あの葡萄の味が懐かしいな。」と思い、馬の背から、手を伸ばして葡萄を一房とると、まず一粒口の中に放り込みました。
葡萄を噛み、その果汁を飲んだ瞬間、睡魔が襲ってきました。目を開けていることが出来ません。しかし、馬は、明らかに、行き先がわかっているようです。
若者を背に乗せたままゆっくりと歩んで行くと、懐かしい家が馬の視界に入ってきました。馬は立ち止まると、大きく嘶きました。
若者の父親は、その前の晩息子の夢を見ました。夢の中では、息子が家に帰ってくる途中でした。夢が現実になればと願い、心から息子に会いたいと思いました。
馬の嘶きが聞こえたのはその時です。
「息子に違いない。」と叫ぶと、家から飛び出しました。あの馬が家の前に立ち止まっているのです。馬は、また一声高く嘶きました。まるで何か大切なことを知らせたがっているようです。
父親は、息子が病人のように馬の背に横たわっているのに気付きました。
「一体どうしたんだ。病気なのか、それとも誰かに襲われたのか。」
父親は気が動転し、立て続けに息子に尋ねましたが、何の返答もありません。馬の背に、息子はただ眠っているだけです。
父親は息子を、昔の息子の部屋の布団に静かに寝かせてやると、何度も何度も息子の名前を呼びました。しかし息子は眠り続けたままで、目をさましそうにもありませんでした。

(6)
さて、若い妻は夫のことが心配になってきました。すでに四日が経っています。一睡もしないで夫を待っていました。五日目の朝、心配した妻は、父親に申し出ました。
「夫に何が起こったかだいだいわかります。夫はきっとあの毒葡萄を食べたのだと思います。
人はあの葡萄を見ると味わってみたいという気持ちを抑えられないと聞いています。私が、夫に近道を教えたばっかりに。夫はどこか途中で眠ってしまったのです。」
つわりもすこし治まってき始めたので夫を探しに行きたいと思いました。しかし身ごもった女が一人で行くのは危険だと言うことで父親は許しませんでした。
ちょうどその時、外で馬がいななきました。
「夫の馬だわ。」喜び勇んで、彼女は扉を開けました。しかし、そこに見たものは背中に鞍をつけた馬だけでした。
家から駆け出すと、
「夫はどこにいるの。」と馬に尋ねました。もちろん、馬は答えません。しかし、まるで馬に乗れと言っているかのように、馬は歯で彼女のそでをしっかりと引っ張りました。
父親の許しをもらっている暇はありませんでした。忙しく彼女の旅が始まりました。
険しい山に来ると、「飛び越えて。」と叫びました。まもなく、夫が葡萄を摘んだ所に降り立ちました。道の反対側に顔を向け、葡萄は見ないようにしました。
すると、信じられないことに、そこに生えている珍しい薬草に目が留まりました。
「山のふもとに毒葡萄に効く薬草があるそうだ。でもこれまで誰も見たことはない。」とかって祖母が話していたことがありました。
どうして、そんなに早く珍しい薬草がみつかったかって? それは、つまり夫を助けたいという彼女の一心に他なりません。
薬草を数本摘むと、旅を続けました。途中、道の両脇をくまなく捜しましが、夫は見つかりません。そして馬は大きな家の前に止まると、大きくいななきました。
もうお分かりですね。その家では彼女の夫が眠り続けているんです。もちろん、そんなことは知りません。でも目に見えない力が彼女に働いたのでしょう。丁度家から出てきた人物に近づいたのです。
勇気を奮い起こし、彼女は、夫のことを聞いたことがあるか、尋ねてみました。そして、自分がどうしてここにいるかを話しました。
その人こそ、夫の実の父親だったのです。息子の嫁に会えたことを驚き、たいそう喜びました。
部屋の中に導かれると、そこには夫が横たわっていました。夫を目にして涙があふれてきました。彼女は、台所に案内してくれるよう、義理の父にお願いしました。
「私ができることは、薬草茶を煎じて、夫に飲ませてあげること。」と思いました。そして、夫が助かることを神に祈りました。
幸いなことに、夫は少しずつ目を開けました。煎じ茶が効いたのか、それとも葡萄の毒が消える頃だったのか定かではありませんが。
何はともあれ、夫はそこに心配そうに自分を見ている人を見ることができました。妻と、父親と、そして赤ん坊を抱いている父の妻を。
どうして自分が布団に横になっているかを思い出すのにそう時間はかかりませんでした。
「心配をおかけして申し訳ございませんでした。もう大丈夫です。」と元気な声でこう言った時、みんなはほっとしました。
父の妻は彼に赤ん坊を差し出すとこう言いました。
「この子を見て下さい。この子はあなたの弟です。実はあなたがここにいた時、私は身ごもっていたのです。
つわりで、いつも気分がすぐれなくて、あなたに辛くあたってしまいました。許してください。」
父親も、息子が出てから、どれくらい心配したかを語りました。そして、息子が、とても素晴らしい人と結婚したことを知ってとても幸せであると付け加えました。
そして若い夫婦が自分たちと一緒に暮らすことを切に望んでいたので、こう言いました。
「お前たち二人はいつまでもここにいていいよ。」と。
若い妻はこう言いました。
「お気持ちはありがとうございます。是非そうしたいと思いますが、私の父も私たちのことをたいそう心配していると思います。どうかおいとまするのをお許しください。
また訪れることをお約束いたします。今度来るときは孫を連れてまいります。」
若者も、妻が一人っ子であるため、ここで一緒に生活できないことを深く詫びました。彼は弟に初めて会えたので、出来る限り弟の面倒を見ることを父親に約束しました。
old parents 手短に言えば、二つの家族はそれからずっと良い関係のお付き合いを続けたのです。特に弟を可愛がる兄と、兄を尊敬し父の仕事を助け、商人になった弟の関係は。
まもなく、厨坊は地主として父の仕事を引き継ぎました。しかし決して辛かった時期のことは忘れず、一生懸命働き続けました。
暇が出来ると、台所でおいしい食事に精を出しましたから、家族だけでなく、回りの誰からも愛されました。
もちろん、もう厨坊さんと呼ぶ人はいません。彼は長者さまの若旦那と呼ばれ始めました。その後もみんな幸せに暮らしましたとさ。
(kudo:2003/11/1 assisted by Itaya)
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