
なぜ海老の背中は曲がっているのか
むかし、むかし、それは大きなワシが世界の一番高い山の頂上に住んでいました。大きな羽根を持っていることをとても自慢していました。羽根を広げると、太陽をさえぎり空が真っ暗になるようでした。いつもその山の周りを飛んでいましたが、ワシより大きな鳥はいませんでした。「何と見事な羽根を持っているんだろう。わしはこの山の辺では一番大きい。おそらく羽根を広げれば世界一大きいだろう。」と思っていました。
ワシはとても自信があったので大きさを他の動物と比べたくなりました。いまこそ世界に飛び出す時だとも思いました。海を横切るときはワクワクしました。一日中海の上を飛び続けました。まずカモメに出会いました。それから渡り鳥の群れにも出会いました。でもどれも大きさで自分にかなうものはいませんでした。でもそのあと見えたものは波だけでした。自分より大きな動物や鳥に出会わないことに喜びを感じていました。
とても頑丈な羽根でも、さすがに疲れてきました。日も暮れるころ、休む場所を探しました。すると、棒のようなものが見えてきました。さっそく近くに飛んでいきました。
「棒かと思ったら、何と柱だ。それにしても何と太い柱だろう。ここで休むことにしよう。」羽根をたたむと柱の上に泊まりました。長旅で疲れてぐっすり寝込んでしまいました。
でも眠っていると、揺りかごの中にいて揺れているようです。突然、柱が大きく揺れて、海の中に落ちそうになりました。目が覚めると、「何と奇妙な柱だ。こんなにひどく揺れる柱の上に座ったのは初めてだ。」と叫びました。すると、海の下から声がしました。
「そこにいるひと、それは柱じゃなくて、私の顔の先のひげですよ。あなたは知らないと思いますが、私は海老というものです。」そういうと、それは、それは大きな海老が海から顔を出しました。海老は、羽根を広げたワシよりも10倍の大きさでした。ワシは声もかすれてしまうほど、たいそう驚きました。
「わしはあなたのような大きい海老を見たのは初めてです。あなたは世界で一番大きな生き物に違いありません。」とワシは言うと自分の山に飛んで行ってしまいました。
海老はいつも海の中に住んでいたので、世の中のことは知りませんでした。だからワシが言ったことに海老は大喜びでした。海老は自分がワシの10倍大きいことに初めて気がつきました。海老の頭の中には、この世で一番大きな生き物でありたい、という願いが浮かんできました。
「私は何と大きな体を持っていることでしょう。ワシが言ったように、私は世界で一番大きな生き物に違いない。」
海老は今や自信に満ち溢れていました。あちこちに行って自分を他の大きな生き物と比べてみたくなりました。海老は世の中をまだ見たことがありません。世界を見る最初の旅立ちでした。うれしさで心臓が高鳴っていました。海をスイスイと泳いでいきました。一日中泳いでも、海老が出会ったのは小さな魚とカニくらいでした。自分より大きなものに出会わないことをうれしく思いました。とても丈夫な体でも、一日の終わりには海老は疲れてきました。海老は休み場所を探しました。すると手ごろな、自分の体にぴったりの穴が見つかりました。
「いい場所だわ。今夜はここでゆっくり休むことにしましょう。」海老は中に入り込むと、深い眠りに落ち入りました。夢の中で、船の中で揺れているような感じでした。大きな揺れで、あやうく転がりそうになりました。目が覚めて、「何と奇妙な穴なのでしょう。こんなにひどく揺れる穴の中で眠ったのは初めてだわ。」と言うと、穴の奥のほうから声が聞こえてきました。
「鼻がくすぐったいな。ここは穴じゃなくて、僕の鼻だ。君は知らないと思うが、僕はクジラというものだ。」
海老は、とても驚いて最初何のことかわかりませんでした。今どこにいるのか気づくまでに、ちょっと時間がかかりました。クジラは、何と大きいのでしょう。海老の100倍はありました。とても大きくて海老はクジラの全身を見ることはとても出来ませんでした。海老は、恐る恐るこう言いました。
「あなたのような大きな生き物を見たのは初めてです。あなたこそ、世界で一番大きい生き物です。」
「ありがたきお言葉。君がそう言うなら、僕は世界一の大いのかも。」とクジラは言うとゆっくりと浮かんできました。そして突然潮を噴き出したものだから、かわいそうに、まだクジラの鼻の中にいた海老は、吹き飛ばされ、岩に体を打ち付けてしまいました。
「痛い。背中が!」と叫びました。住み慣れた故郷に戻ろうとしました。でも背中が痛くて泳げません。海老の背中がいまでも曲がっているのは、そういうわけです。(kudo)