芝居の好きな閻魔さま

actor むかし、むかし、とても人気のある役者がいました。「国一番の役者」と呼ばれ、観客は舞台の上の彼にお金を沢山投げました。その名は、この世だけでなくあの世にも知れ渡っていました。
しかし、病気になり亡くなってしまいました。今あの世への途を一人歩いておりました。道中、途が二つに分かれている所に来ました。広い道と狭い道です。
「どちらを行ったものか。」極楽に行きたいと思っておりました。道の脇に地蔵が立っていました。
「お地蔵さん、極楽に行くのはどっちの方ですか。」
お地蔵さんは微笑んでいるだけです。しばし考えました。
「大勢が行くのは広い途。広い方を行こう。」
しかし残念ながら、地獄の入り口に来てしまいました。
「何と言うこと。善人より悪人が多いと言うことか。」
戻ろうとすると、大きな声で呼び止められました。
「こっちへ来い。」豪華に着飾った閻魔さんが地獄の入り口に座っていました。
とても恐ろしくて、役者は地面にひれ伏しました。
「お前は、手脚を動かし、人を騙して金を稼いだ。地獄行きだ。」閻魔さんは睨みつけて言いました。役者は恐くて身動きできません。
すると閻魔さんは手招きをしながら優しい声で言いました。
「近くに来い。」
役者は恐る恐る近づきました。
「拙者は本物の芝居と言うものを見たことがない。そちにここで演じてもらいたい。うまく演じたら、極楽に送ってやろう。」
役者はとても喜びました。
「早うせよ。」と閻魔さま。
「閻魔さま、わかりました。しかしこのような低いところではできません。」
「どうする。」
「閻魔さまが座っておられるような高いところで演じたいと思います。」
「そうか、それではこちらで演ぜよ。」
「しかし、このような白い着物ではできませぬ。」
「どうする。」
「閻魔さまが着ておられるような豪華な着物で演じたいと思います。」
kabuki 「そうか、拙者の着物を使え。」閻魔さまは着物を脱ぎました。
閻魔さんと役者は着物と場所を代えました。
豪華な着物を着た役者は高い所で見事に演じました。白い着物を着た閻魔さまは下に座って見ていました。閻魔さまは、身を震わせながら言いました。
「見事じゃ。でもこの薄い白い着物は寒い。早くやってくれ。」
役者は、手と脚を動かし低い声で見事に演じました。
「さすが国一の役者だ。」と閻魔さまは我を忘れて喜びました。
すると役者は閻魔さまの剣を抜くと叫びました。
「赤鬼、青鬼出会え。ここに手脚を動かし、人を騙して金を稼いだ者がおる。地獄に連れて行け。」
鬼は駆け寄り閻魔さまを摘み上げました。
「騒ぐな。じたばたするな。」と鬼。
「何をする。拙者は閻魔大王だ。」と閻魔さま。
「拙者の名を使うとは何と不届き者。即刻地獄に連れて行け。」と役者。
「拙者じゃ。拙者じゃ。拙者の声を忘れたのか。閻魔大王の。」
「大した役者じゃ。閻魔さんと同じ声を話すとは。」鬼たちは、そう言うと地獄の燃え滾る大釜に投げ入れました。
役者が閻魔さまの後釜になり、村人達は、閻魔様のおかげで極楽に行けるようになりました。(2004.12.14)

emma