
二人の僧
むかし、むかし、京の都に貧しい男とその妻がおりました。ある日のこと、妻は貧乏暮らしを夫にぼやきました。
「貧乏暮らしはもううんざり。食べるものもろくにないし、いつも同じ着物。新しいのを買ったこともない。物乞いの方がまだましだわ。こんな惨めな生活はいや、もうたくさん。あなたが盗人か追いはぎにでもなってくれたら、うれしいわ。新しい着物が買えるわ。」
「馬鹿なこと言うのはよせ!そんなひどいやつにはならん。いいか、世の中には貧しい人が沢山いるんだ。中には俺たちよりも貧しいものもいるんだ。」夫は妻をたしなめました。
「じゃ、あなたとは別れたいわ。別れましょう。金持ちでも見つけて一緒になるわ。」
それでも夫は妻を大事にしていたので、妻のいない生活は考えられませんでした。毎日妻の不満に頭を悩ませていました。自分に嫌気がさすのではないかと不安でした。
ある晩のこと、綺麗な着物を着た婦人が通り過ぎました。我を忘れ、その婦人を殺害し、着物と金銭を奪い取りました。急いで帰宅し、妻に言いました。
「追いはぎになってくれ、と言ったな。女を殺して、着物と金を持ってきた。俺はとんでもないことをした。」
しかし、それを聞いた妻は驚くどころか、その綺麗な着物を見て、うれしそうでした。それでも男は妻を愛しく思っていましたが、ここに至って妻に対して違和感を感じるようになりました。
翌日、妻はその着物を着て出かけました。身の毛がよだつような出来事が起こりました。家を出た直後、妻が誰かに殺されたのです。
「俺がしたことの天罰に違いない。」
男は出家するために高野山に登りました。日々経を読み、自分が手にかけた女の人の供養をしました。
ある晩、出家したばかりの僧が訪ねてきました。二人は互いの身の上話をしました。客の僧は僧に尋ねました。
「どうして出家したのか教えて下さい。私の方は、以前京に住んでいましたが、災難がありまして思い切って出家しました。」
「私も京にいました。しかしとんでもないことをしでかして出家しました。」と僧は客の僧に答えました。
「差し支えなければ、もう少し詳しく話してもらえないでしょうか。絶対に他言しませんから。」
僧は自らの罪(つみ)について話し始めました。客の僧は、関心を示し、たて続けに尋ねました。
「いつのことですか?着物の色は?歳の頃は?」
僧は、思い出すまま語りました。客の僧は、途中で何度も頷きながら、聞き入りました。僧の話が終わりになろうとすると、客の僧は僧に言いました。
「何と言うことだ!あなたが手にかけたのは私の妻に違いない。実は、私もちょうどその翌日出会った女の人を殺してしまいました。その人は妻の着物を着ていたんです。いつ、どこで、手に入れたんだ、と聞いても何も答えずに逃げたから、追っかけて一突きにしたんです。それまで思いもよらないことでしたが、出家する決心をしたのです・・・あの一連の忌まわしいことがなかったら、出家することも、仏典に触れることもなかったでしょう。すなわち、あなたのおかげで私は出家できたのです。亡き妻達のために二人で供養いたしましょう。」
二人は手を取り合って泣きました。二人の僧は、山にこもり、厳しい修行をつみました。
(Kudos)徒然草・改