愚かな弟どん

boy むかし、むかし、ある所に母と二人の息子がおりました。
母はことある毎に、こう言っていました。
「下の子は、少しとろいので、これから先が案じられます。」
母に何か用を頼まれると、その子は決まって「大丈夫。お安い御用だ。」とか「任せておけ。」と言います。
もちろん、ちゃんとできたためしはありません。しまいには、母がはじめからやり直すのです。それでもその子は何も気に掛けません。兄が「ぐず」と呼ぶものですから、みんなもそう呼びました。
ある日のことです。母は風邪を引きました。母自身も二人の息子もたいしたことはないと思っていましたが、数日後、母は風邪をこじらせて亡くなってしまいました。母の弔いをすることになり、兄が弟に言いました。
「ぐず、お寺に行って、お坊さん呼んできてくれ。お坊さんに会ったことがあるかな。黒いのを着ているのがそうだ。わかったか。」
「わかった。任せておけ。」
弟はお寺の境内でカラスを見つけました。
「おっ、黒いのを着ているな。」カラスにお辞儀をして言いました。
「かかあが亡くなったから、一緒に来てくれ。」
「カア、カア。」と鳴いてカラスは飛んで行ってしまいました。
「そう、そう。カカアだ。でもどうして行っちゃたんだ。」(追加)
crow しぶしぶ家に帰ると、黒いのを着たお坊さんは飛んで行った、と兄に話しました。
「それは、お坊さんじゃなくて、カラスだ。じゃあ、白いのに赤いのを着ているのならどうだ。間違えるはずがない。すぐに連れて来い。」
弟は急いで再びお寺に行くと、赤いとさかのオンドリを見つけました。
「白と赤。これが兄貴が言っていたお坊さんだな。」地面にひざまずき、両手を合わせて言いました。
「かかあが亡くなったから、すぐに来て下さい。」
「コックヶコッコー」と鳴きました。
「なんだ、コックさんか。おいらはお坊さんに来て欲しいんだ。」
ニワトリには、もちろんわかりませんから、そのまま走り去ってしまいました。またもやお坊さんを連れてこられず、落ち込んで戻ってきました。それを聞いた兄は弟の馬鹿さ加減に嫌気がさしました。
「この馬鹿。俺が行ってお坊さんを呼んでくる。お前はここで、飯の用意をしろ。わかったか。」
「わかった。お安い御用だ。」
しばらくすると、鉄釜(かま)の中のご飯が煮えて、泡を吹きながら、音をたて始めました。
「グズ、グズ。」弟は、自分の名がとめどなく呼ばれていると勘違いし、釜に言いました。
「何か用か。」
rooster もちろん、釜にわかるわけがありません。相変わらずグズ、グズと音をたてています。腹が立ってきました。
「ちくしょう!バカにするな!」釜は「グズ、グズ。」と呼び続けます。
弟は、とうとう頭にきて、釜を土間に投げつけました。ご飯粒があちらこちらに飛び散りました。
お坊さんを連れてきた兄は、台所にいる弟を見つけると、事の顛末(てんまつ)を察知し、あきれ果てて言いました。
「いいか、もうお坊さんとお客さんに出すものは何もないぞ。あとは甘酒だけだ。お前は馬鹿でも力だけはある。二階からなべを降ろすのを手伝え。」
「わかった。任せておけ。」といつもの返事。
兄が二階に上がっている間、弟は階段の下でじっと立っていました。まもなく甘酒がいっぱい入った土鍋を持って兄が階段を下りて来ると、階段の端にいる弟に渡そうとしました。
「しりをしっかり持て。」
「わかった。お安い御用だ。」そう言うと、自分のしりをつかみました。
priest 兄が離すと同時に、鍋は床に落ち粉々になりました。もちろん、甘酒は全部床にこぼれてしまいました。
「この馬鹿!しりを持てと言ったろう。」と怒鳴りました。
「見てくれ、しりをしっかり持ってるよ。」
兄はつくづく弟の馬鹿さ加減にあきれました。
「お坊さんに出すものはもう何もない。あとは・・・」兄は考えました。
「お風呂に入ってもらうだけだ。」
お風呂に入っているお坊さんに、風呂加減はどうか聞いてみなさい、と兄に言われました。
弟は、お坊さんに聞きました。
「お風呂のあんばいはどうですか。」
「ちょっとぬるいかな。その辺にあるものを入れてくれるかな。」とお坊さん。
愚か者は、その辺にあるものを手当りしだい火の中にくべました。何のためらいもなくお坊さんの着物まで。
「ちょうどいいあんばいじゃ。」お坊さんはご満悦です。
お風呂から上がると、着る物がありません。兄はとんでもない無礼お許し下さい、とお坊さんに深くお詫びしました。(kudos)

Stupid Brother