鉢かつぎ姫〜逆境〜

lord むかし、むかし、あるまちに、裕福で学識豊かな夫婦が幼い娘と一緒に住んでいました。和歌、音楽、書物などをたしなんでいました。
ところが、愛しい娘が十三の時、妻は突然の病に襲われました。枕元にいる娘にこう言いました。
「お前とお父さんを残して、まもなく私はあの世に旅立つのです。本当に心のこりです。」
母親は、とても信心深い人で、
「私の夢の中に、観音様があらわれました。『娘が将来役立つものを小箱におさめ、娘の頭の上に載せ、さらにその上に大きな木鉢(きばち)を被せなさい。そうすれば、望みどおり、そなたの亡き後娘を加護しよう。』とこう告げられたのです。」と娘に伝えました。
母親は、そう言うと、娘の頭の上に小箱を載せ、その上に大きな木鉢を逆さまに被せました。
かわいい娘を残し、母親はまもなく息を引き取りました。

妻の葬儀がすみ、夫は娘の頭の木鉢を取ろうとしました。どう引っ張っても、木鉢は頭にぴったりとくっついていて、取れません。
「妻を亡くした上に娘の頭には木鉢がついたまま。何ということだ。まち一番の評判娘も、今やこんな見苦しい姿になって!これからは人に身体障害者扱いにされるだろう。」父親は深く嘆きました。
それからまもなく、父親は、親戚の薦めもあり、若い婦人と再婚しました。まま母は障害のある娘をかわいがりませんでした。特に自分の子供が生まれてからというものは、一層冷たくあたりました。毎日毎日やっかいもの扱いでした。夫には、こんなうそまでつきました。
「あの子は、先妻の墓の前で、私やこの子だけでなく、あなたのことも悪口を言っていますよ。」
父親は、とうとう、うそをまともに受け、娘に命じました。
「何というやつだ!私たちをあしざまに言うなんて!お前のように障害がある上、不孝者の娘を、この家に置いておくことはできない。ここをすぐ出て、どこへなりと好きなところへ行きなさい。」
まま母はきれいな着物を脱がせると、代わりに着古した着物に着替えさせ、遠くに連れ出し、娘を見知らぬ土地に置き去りにしました。
涙が枯れる程泣いた後、娘はあてもなく歩き出しました。そして大きな川の所に来ました。
hachikatugihime 「行くあてもないし、いっそ川に飛び込んだ方がましだわ。あの世でお母さんに会いたい。」
娘は川に飛び込みました。でも頭に被った木鉢のために、水の中に沈みません。ぷかぷか浮いているだけです。
ちょうど小舟に乗った若者が娘を見つけて、助け上げました。若者はある殿さまの四番目の息子でした。
「どこから来たのですか。どなたですか。」若者は尋ねました。
「ここから少し離れた所に住んでおりました。母が亡くなってから、私のことを気にかけてくれる人はいません。誰も私のように障害のあるものを相手にしてくれません。川に飛び込んで死のうと思いました。」
若者は娘の木鉢を外そう(はずそう)としましたが、外せませんでした。
「どうだろう、私の家で働いてみないか。何かできることはあるかな。」
「これと言ったことはありません。母から音楽や書物や経文を習ったことがあるだけです。」
「それでは、屋敷に来て風呂番として働くのはどうだろう。」
娘は、殿さまの家で、風呂桶をきれいにしたり、薪(たきぎ)を割ったり、というように朝から晩まで一生懸命働きました。(Kudos:姫イラストby 花鱗)〜続く〜       おとぎ草子物語より    


A Girl with a Bowl on her head