
花乙女
むかし、むかし、ある所に花の大好きな女の子がいました。両親も花が好きで、毎日花の手入れを欠かしませんでした。百合、向日葵(ひまわり)、菊、そのほか色々美しい草花が、庭や、家の周りに、一年中咲いていました。
女の子はユリ(百合)という名前でした。百合のように美しい女の子になって欲しいという親の願いでした。村人は、その家の草花と、娘のユリを見るのが楽しみでした。実際、なんと多くの村人が、その草花とユリの笑顔に慰められ、励まされたことでしょう。
月日が過ぎて、ユリは美しい娘に成長しました。忙しい両親に代わって、ユリが草花の手入れをするようになりました。
初秋のある日のことでした。ユリはひどい風邪にかかり、高熱が続きました。一月(ひとつき)余り寝たきりの状態でした。庭の沢山の草花も日に日に枯れていきました。それから一ヶ月ほどしてようやく病気もよくなり、草花を見に庭に出てみました。目にしたのは枯れ果てた草花の茎のみ。あまりのショックで言葉を失ってしまいました。自分の気持ちを両親に話そうにも言葉がでません。
両親も心配して、村の内外の医者の所に行き、どうしたら声を取り戻せるか尋ねましたが、特効薬も治療法もありませんでした。占い師にも相談してみました。「できるだけ多く百合の球根を植えなさい。」という占い師がいました。さっそく、野原や山や川岸に百合の球根を植え始めました。村人達は、最初二人が何をしているのか分かりませんでしたが、何のためなのか分かると、手を貸そうと言いました。冬が来る前に、何百個もの百合の球根が植えられました。
春が来ると、村にはいろいろな百合の花が咲きました。百合の花束を持ってユリの家を訪れた村人がいました。ユリは嬉しさで顔がぽっと赤らみました。村人が抱えている百合に目をとめると、口をゆっくり開きました。何か言いたいようです。両親と村人はじっと見守ります。するとまた娘の唇が動きます。奇蹟が起きました。
「ゆ・・・り・・・」娘の口から言葉が出たのです。
百合の花が奇蹟を起こしたのです。村人と両親は花の持つ不思議な力を実感しました。人々は花を見て、すがすがしい気持ちや、温かく幸わせな気持ちになります。村の人たちは、それぞれの家の周りや野原、それに山にも花を植え始めました。いつしか、その村は『花の村』と呼ばれるようになりました。(Kudos) 画像:牧野宗則