働き者の丁稚どん

man むかし、むかし、あるところに長者さんが住んでおりました。長者さんのところには奉公人がたくさんおりました。その中に、もくもくと働く丁稚(でっち)どんがおりました。仕事は決して速くはありませんが、何をするにつけても真面目でした。言われた仕事はきちんとするし、仕事を言いつけた人に嫌な顔をすることは決してありませんでした。
ある日のことです。丁稚どんは、「木に止まっている蝉(せみ)をつかまえて。」と、長者さんちの娘さんに頼まれました。木に登って、もう少しで手が届くところで、蝉に逃げられてしまいました。それを見ていた丁稚たちはからかいました。
「お前は本当のあほだな!あんなことを真に受ける奴はいないぞ!『正直者は馬鹿を見る』って言うことだ。」

その年の大晦日のことです。丁稚たちは、その年最後の支払いと取立てに出かけました。ところが大方の丁稚たちははいつもより早く帰ってきました。近所を回っただけで、あとは、あの丁稚どんに頼んだのです。丁稚どんにかぎって手を抜くことはありません。予定していた家をすべてまわって、戻ってきた時は夜もふけていました。丁稚たちはお風呂を済ませ、部屋でくつろぎ、夕飯を待っていました。
丁稚たちが、台所で夕飯を取っていると、長者さんが台所に入ってきました。長者さんの家族は居間で食事をとるのです。
「誰か、すぐ町に行って酒を買ってきてくれ。」
「かしこまりました。行って来ます。」丁稚どんは食べるのを途中でやめて言いました。他に返事をする者はいません。
丁稚どんはまちの酒屋めざして一目散に走りました。そして一時間あまりで戻ってきました。丁稚たちはすでに休んでいましたが、長者さんは待っていてくれました。
丁稚どんは、長者さんに徳利(とっくり)を渡し、台所で自分の食べ残しを食べ、そして残り湯に入りました。さて風呂を出ると、どうしたことか自分の着物がありません。あちこち見まわしましたが、そこには真新しい着物があるだけです。ほとほと困っていると、長者さんがやって来ました。
millionaire 「お前の新しい着物だ。着なさい。」
「とんでもないことです。このようなきれいな着物を着るわけにはいきません。働くにはいままでのが一番です。」
長者さんは、微笑みながら言いました。
「私には一人娘がいるだけで、跡取りがいない。そこでお前さんに跡取りになってもらいたいのだ。」
次の朝、長者さんは皆の衆を部屋に呼び寄せ言いました。
「皆の衆に知ってもらいたいことがあります。ここにいる若者が私の跡取りです。これからは、この者の言うことをよく聞いて言われたとおりにしなさい。」

丁稚どんは、長者の娘さんと祝言(しゅうげん)をあげ、長者さんの跡取りになりました。そして「長者さんちの婿殿」と呼ばれたのです。でも若旦那はそんなことは意に介しません。相変わらずもくもくと働きました。家はますます繁盛し、いつしか「長者さんちの若旦那」と呼ばれるようになりました。(kudos)

A Hrdworking Man