
ひおとこ
むかし、むかし、ある所におじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは親切で働き者です。毎日山に焚き木を取りに出かけました。ところが、おばあさんは欲張りで怠け者です。外で働くのがいやでいつも家の中にいました。
ある日のことです。おじいさんが山で焚き木を集めていると、どこからとなく声がしました。
「焚き木をくれ。」
おじいさんは、声のするほうに行ってみると、声は穴の中から聞こえてきました。焚き木を穴の前に持って行くと、焚き木は穴の中に吸い込まれてしまいました。
おじいさんが、中を覗き込んだ時です、おじいさんも穴の中に吸い込まれてしまいました。
穴の中では、火が赤々と燃えていて、火の神社がありました。おじいさんは、そこで火の神さまに会いました。
神さまはおじいさんに言いました。
「焚き木をかたじけない。代わりにこの包みをしんぜよう。」
おじいさんは家に戻って、包みを開けると、おかしな顔の子供が出てきました。欲張りばあさんは、その子が気に入りません。
でもおじいさんは、その子を「ひおとこ」(火男)と名づけ、たいそうかわいがりました。
ところが、来る日も来る日も、その子は座っておへそをいじっているだけです。おじいさんは、おへそをいじらないよう再三注意しましたが、いっこうにやめません。とうとうおへそはパンパンに脹れてしまいました。
おばあさんは知らぬ顔をきめ込んでいましたが、おじいさんは、とても気の毒に思って、おへそを葉巻入れで軽くたたいてやりました。すると、どうでしょう。金貨が出てきました。叩くとまた一枚。欲張りばあさんも大喜びです。
おじいさんは、一日三回やさしくおへそを叩いてあげました。
二人はまもなくお金持ちになりましたが、おじいさんは、毎日山に焚き木を取りに出かけました。
ある日、おじいさんが山で働いているときのことです。欲張りばあさんは、大きな葉巻入れを持ってくると、子供を追いかけて、こう言いました。
「この葉巻入れで叩けば、ぎょうさん金貨が手に入るぞ。」
子供は、必死になって逃げ回ると、燃え盛るかまどのの中に飛び込んでしまいました。火の神さまの、火の国に戻ってしまったのです。
おじいさんは、とても寂しく思い、子供のお面をこしらえて、かまどのそばの柱にかけておきました。
今でも、かまどのそばに「ひおとこ」のお面をかけて置く習慣があります。いつしか、「ひおとこ」は「ひょつとこ」(おかしな顔)に変わりました。(2003.12.28)