
もう一人の浦島
むかし、むかし、浦島次郎という若者が住んでいました。次郎はとてもほら吹きでした。
「いつか誰かが俺様を迎えに来て竜宮城に連れて行く。俺様はお姫様と結婚するんだ。」
ある日のことです。次郎は、浜辺で大きな亀と出会いました。
「浦島さん、竜宮城へお迎えに参りました。どうぞ乗ってください。」
亀は、浦島を甲羅の上に乗せると全速力で海の中へ潜っていきました。
「浦島さん、あれが竜宮城です。」
「あれが本当の竜宮。ずい分古いな。」浦島は、竜宮城を見て驚きました。
「浦島さん、昔話で竜宮が紹介されたのは、もうずい分前のことです。お城が古いのは当然です。」
「なるほど。」
「とにかくお入り下さい。」
お城に入ると、浦島は、おじいさんが壊れたいすに座っているのを見て大そう驚きました。おじいさんは竜宮城の王様でした。
「王様、お招きありがとうございます。」
「え、何だって。耳が遠いもんでな。」
「ご存じないですか。私は、日本で大変有名な者です。浦島という心優しい者です。」
「浦島ね。知らんな。」
「結構です。」
浦島は、王様との話を切り上げると、お姫様に会うために庭に出てみました。
「お姫様はどこですか。面会したいのですが。」浦島はタコに尋ねました。
「お姫様は、長らく患っておられます。」
「長患い。」
「そうです。そこで貴方様がここに来たのです。お姫様には、猿の肝が必要なのです。」
「猿の肝。」
浦島は、自分が猿と間違えられたとわかってぞっとしました。
浦島は、蔵の中で玉手箱を見つけると、死に物狂いで海の上に泳ぎ上がりました。
村に戻ったときは、疲労困憊、おじいさんのようにやせ細っていました。誰も浦島と気づく人はいませんでした。
「わしは、竜宮に行ってきたぞ。これが玉手箱だ。」
村人に話しかけますが、誰も信じてくれません。ただあざ笑うだけです。
浦島は、大そうがっかりし、とうとう玉手箱を開けてしまいました。
案の定、中から煙が出てきました。しかし、今度は、赤ん坊が浜辺の上の箱の前で泣いているではありませんか。
その後、浦島がどうなったか、知る人はいませんでした。(2004.7.16)