抜け目のない医者

Uma むかし、むかし、ある村に地主さん夫妻が一人息子と暮らしていました。地主さんには、先代から引き継いだ家、田畑、山がありました。
次男も生まれました。ところが妻は、産後の肥立ちが悪く、まもなく亡くなってしまいました。
地主さんの悲しみは計り知れません。生まれたばかりの赤子をとてもいとおしく思いました。自分が死ねば、長男が家長になり、全ての財産を継ぐことになります。
地主さんは、次男にも幾らかの財産を残してやりたいと思いました。田畑と山がもっとあれば、幼い次男にも長男と同じくらいの財産を残してあげられると思いました。地主さんはお金持ちではありましたが、怠け者ではありませんでした。毎日朝から晩まで懸命に働きました。
年月が過ぎ、次男が十八を迎える頃には、地主さんの財産は大分増えていました。家が二軒、田畑が4面、馬が五頭、山が六つになりました。二人の息子に残すには十分な財産と思いました。地主さんは歳を取り、体力もかなり衰えてきました。いつあの世に行ってもいいように遺言を書いておくことにしました。遺言には、自分の財産が均等に二人の息子に渡るよう書き記したのです。地主さんの遺言は、こんなふうでした。
息子たちへ

私は年老いて、もう長くはない。お前たち二人は、終生、共に助け合い仲良くやっていくように。私はお前たちを分け隔てなく育ててきたつもりだ。財産は二人で均等に分けること。相続争いは決しておこさぬこと。

                                    父より

遺言を書き終えて、地主さんはほっとしました。それから数日たった時のことです。馬に乗って田畑の見回りをしていた時、落馬して、腰をひどく打ってしまいました。それからと言うもの、地主さんは床(とこ)についてしまいました。二人の息子は、寝たきりの父を案じ、手厚く看病しました。父は治ると思っていたのに、とうとう亡くなってしまいました。
二人の息子は父が遺言を残していたとは、その時は気づきませんでした。長男は、父の財産は全て自分が引き継ぐものと思っていました。ところが、ある日のことです。亡き父の寝室の後片付けをしていると、一通の文(ふみ)が出てきました。長男には、それが父の直筆で、遺言であることがすぐにわかりました。長男は、父をいたく尊敬しておりましたので、父の遺言に従うことにしました。弟に遺言を見せて、こう言いました。
「自分は父の遺言に従って、お前に財産の半分を譲ることにするが、異論はないだろうな。」
異論があるはずはありません。兄弟は財産を均等に分けることにしました。家二軒、畑4面、馬五頭、山六つです。
「自分は、この家と畑2面と馬三頭と山三つもらうことにする。」と兄が自分の取り分を宣言しました。
「でも兄さん、馬三頭と言うことは、二頭だけが自分のものだよ。遺言では、均等に分けること、となっているよ。一頭は売ってお金で分けようよ。」弟は兄に持ちかけました。でも兄は賛成しませんでした。
「自分は、馬一頭たりとも売ったり殺したりしたくない。何かいい解決策があるはずだ。」
二人は、一晩中、考えに考えて話し合いました。そして次の日も、また次の晩も。二人は行き詰まってしまいました。
isya 兄弟は、この界隈で賢いと誉れ高い、隣り町の医者に助言を求めることにしました。父の今際(いまわ)の床に立ち会った医者でもありました。
「先生、一つ困ったことが起きました。父が亡くなってから、遺言が出てきました。兄弟で財産を等しく分けよ、と言うものです。でも馬五頭を二人で等しく分けるなんて出来っこありません。どうしたら良いものでしょう。」
医者はしばし考えにふけっているようでした。そして二人に言いました。
「うん、なるほど、いささか難しい問題じゃな。でも私に名案がある。馬五頭と申したな。幸い、私の所に、患者の往診で使う馬が一頭おる。5たす1は6じゃ。6は3で割ると幾つじゃ。」
「2です。」二人は声をそろえて答えました。
「その通りじゃ。この三人で馬を二頭ずつ等しく分けることができる。いい考えじゃろ。」
兄弟は、町医者から見事な解決策を得られて満足です。さすが、この界隈で賢いと誉れ高い名医、と思いました。結果的に、医者に余分な謝礼、馬一頭を払うことになっているなんて疑ってもみませんでした。(Kudo)

Shrewd Doctor