
蛙と蛇
むかし、むかしのこと。神さまはすべての生き物を造り、みんなが仲良くやっていけるようにきまりを作ったということです。神さまの仕事は生き物を造ることですが、すべての生き物に名前と生命も授けました。でもまだそれぞれにどんな食べ物を与えるか、はっきりとは決めていませんでした。
しばらくの間は、何も食べなくても生き物は生きることができました。でもだんだんと元気がなくなり疲れを感じるようになりました。でもどうしてだかわかりませんでした。
一番かしこい生き物である蛇が言いました。
「元気でいるためには何か食べなくてはならない。今のこの感じが『空腹』というものだと思う。」
みんなは蛇にたずねました。
「もし、あなたの言うことが本当だとすれば、何を食べたらよいか教えてください。」
「僕にはわからない。でも僕たちを造ってくれた神さまなら何でも知っている。神様の所へ行って何を食べたらよいか尋ねてみよう。」と蛇が提案しました。
さっそくすべての生き物は神さまの所へいくと恐る恐る尋ねました。
「神さま、私たちを造ってくれてありがとうございます。でも私たちは何を食べたらよいかわかりません。どうか私たちに何を食べたらよいか教えてください。このままだとみんなじきに死んでしまいます。」
神さまは一つずつ、一匹ずつ、一頭ずつ生き物を造るのに忙しくて、そこまで考える暇はありませんでした。みんながそういうのももっともでした。神さまは生き物に向かって言いました。
「みなのもの、皆がここに来る前に食べる物を決めておくべきだった。近頃ちょっと忙しくて気が回らなかった。申し訳ない。よろしい。今夜考えることにしよう。明日の朝、皆に知らせよう。よろしいか。」
神さまのことばに大喜びな生き物たちは期待に胸を膨らませました。
次の朝です。夜が明けるのも待ちきれず、生き物たちは再び神さまの所へ急ぎました。もちろん蛇も、神さまの言葉を聞こうと、その中にいました。他の生き物より早く家を出たのですが、まもなくみんなに追いつかれ、追い抜かれてしまいました。その中にいた蛙が追いつきざま蛇に言いました。
「ねえ。蛇君。歩くのがのろいのね。もうちょっと速く歩いて、私と一緒に神さまの所へ行きましょうよ。」
「ああ、はい、蛙さん。どうか先に行ってください。僕より先に神さまに会ってください。待っておいでだから。僕も後から来ると伝えてください。」蛇が、ハアハアあえぎながら言いました。
「蛇さんだってもっと速くあるけるわよ。ねえ、一緒に行きましょうよ。」
「僕も一緒に行きたいな。でもお腹がすいてて、とても君のようには歩けないよ。せいぜいこんな風に地面を這っていくことしかできないよ。」と蛇は蛙に言いました。
蛙はちょっと腹が立ちました。自分の誘いが断られたと思ったからです。
「いいわ、そう言うなら、後からついてきて私のお尻をなめて。」と捨て台詞をいうと蛙は蛇の前をピョンピョンと飛んでいってしまいました。あっという間に蛙は見えなくなってしまいました。
蛙が神さまの所についた時には、もう他の生き物も来ていて神さまから答えをもらっていました。
神さまは生き物それぞれに何を食べるか、こんな風に話していました。
「牛、馬は草を食べること。草はどこにでもあるから、これからはお腹がすくことはないだろう。」
「犬や猫は人間からエサをもらうこと。ちゃんと人間に仕えれば人間からごちそうをもらえる。」
「モグラは土の中の虫を食べること。土の中は夏涼しく、冬暖かい。」
そしてついに蛙の番がやってきました。神さまは言いました。
「蛙は虫を食べること。」これを聞いて蛙はほっとしました。虫なら簡単にどこでも食べられるからです。
上機嫌で立ち去ろうとした時、神さまが付け加えました。
「蛙、おまえはここへ来る途中、蛇をからかった。蛇にはお前の尻をなめさせよう。お前がそう言ったから。お前の望みをかなえてあげよう。」
蛙はたまげて言いました。
「神さま、そんなにまじめに取らないでくださいよ。ほんの冗談ですよ。」しかし神さまは一回言ったことは決して変えません。
神さまが蛙に話しているちょうどその時、蛇が到着し聞いていました。蛙は蛇を見るとぞっとしました。震え声で言いました。
「ごめんね、許して、さっき言った・・・」蛇は、蛙が言い終わらない内に後ろから近づくと、一気に蛙を飲み込んでしまいました。
それは蛇が望んだことではありません。神さまが決められたことなのです。今でも、蛇は蛙を見ると後ろから一気に飲み込んでしまいます。(Kudo 2003.6.1)