
頭に柿の木
むかし、むかし一人の男がお金持ちの家で働いておりました。仕事は熱心ですが、お酒には目がない男でした。時々、主人のご用達で隣の町まで出かけて行くことがありました。隣町との境にお茶屋が一軒あり、帰り道そこに寄るのが常でした。お酒を飲むお金があると、一杯飲んではしばしの間昼寝をしました。
お茶屋のおかみさんは、いつもこう言って彼をおこします。
「もう日が暮れるよ。さっさと起きて行かないと主人に叱られるよ。」
彼はいつもこんな風に答えます。
「おっとこ、どっこい。俺としたことがまた寝過ごしてしまった。」
そして跳び起きると、一目散に町に戻っていきました。
ある日のことです。一杯飲んで、いつものとおり茶屋の入り口横の長いすの上でぐっすりと寝込んでいると、数人のいたずら小僧が、手に手に柿を持ってやって来ました。そして一斉に柿を食べ始めると、彼が眠っている長いす目がけて、タネを飛ばして誰がいすに命中させられるか競争し始めました。すると柿のタネが一つ彼の頭にあたり、髪の毛の中に入ってしまいました。
しばらくすると茶屋のおかみさんが出てきていつものように彼を起こしました。
「もう日が暮れるよ。さっさと起きて行かないと主人に叱られるよ。」
「おっとこ、どっこい。俺としたことがまた寝過ごしてしまった。」といつものように答えると、彼は頭に柿のタネをのせて一目散に町に戻っていきました。
実に不思議なことに、そのタネは芽を出し、どんどん大きくなり、ついには実を付け始めました。彼は、頭に柿の木があることを、とても喜びました。
数日後、彼は頭に柿の木をのせて茶屋を訪れました。柿の木を指差し、おかみさんに言いました。
「頭の上の柿の木に柿がなった。うまいこと請け合いじゃ。この柿で酒一杯飲ませてはくれないか。」
「いいですよ。」とおかみさん。
一杯飲むと、いつものように、長いすの上で眠ってしまいました。するといたずら小僧たちがまたやって来ました。おかみさんは、長いすに寝ている男を指差して、彼がくれた柿の不思議な話を子供たちにすると、ガキ大将が言いました。
「お前ら。のこぎりを持って来い。この木を切るぞ。」
「そうしよう。」とみんなが言いました。
頭の上の柿の木をのこぎりで切られても、彼はまだぐっすり眠っています。切り株だけが残りました。しばらくすると、茶屋のおかみさんが出てきていつものように彼を起こしました。
「もう日が暮れるよ。さっさと起きて行かないと主人に叱られるよ。」
「おっとこ、どっこい。俺としたことがまた寝過ごしてしまった。」といつものように答えると、彼は頭に切り株をのせて一目散に町に戻っていきました。
数日後、彼は頭に柿の切り株をのせて茶屋を訪れました。
「頭の上の切り株にきのこがなった。うまいこと請け合いじゃ。きのこで酒一杯飲ませてはくれないか。」
「いいですよ。いいですよ。」とおかみさん。
一杯飲むと、いつものように、長いすの上で眠ってしまいました。するといたずら小僧たちがまたやって来ました。おかみさんは、長いすに寝ている男を指差して、彼がくれたきのこの不思議な話を子供たちにすると、ガキ大将が言いました。
「お前ら。おのを持って来い。この切り株を切るぞ。」
「そうしよう。」とみんなが言いました。大将はやっとのことで彼の頭から切り株をきれいさっぱり取り除きました。それでも彼はぐっすりです。彼の頭にぽっかり大きな穴があいているのを見て、子供たちはとても満足です。
しばらくすると、茶屋のおかみさんが出てきていつものように彼を起こしました。
「もう日が暮れるよ。さっさと起きて行かないと主人に叱られるよ。」
「おっとこ、どっこい。俺としたことがまた寝過ごしてしまった。」といつものように答えると、彼は頭に穴をあけたまま一目散に町に戻っていきました。
数ヶ月後、彼は頭に穴をあけたまま茶屋を訪れました。
「頭の上の穴にうなぎがいる。うまいこと請け合いじゃ。うなぎで酒一杯飲ませてはくれないか。」
「いいですよ。いいですよ。いいですよ。」とおかみさん。
一杯飲むと、いつものように、長いすの上で眠ってしまいました。するといたずら小僧たちがまたやって来ました。おかみさんは、長いすに寝ている男を指差して、彼がくれたうなぎの不思議な話を子供たちにすると、ガキ大将が言いました。
子供たちはもう彼にはうんざりしてしまい、こう言いました。
「どうしようもないおじさんだ。何してもだめだ。」
子供たちは、肩をすくめると、何もしないでどこかに行ってしまいました。
男は、それからも、うなぎと交換で一杯飲むと、長いすで昼寝し、おかみさんに起こされ、跳び起き一目散に町に戻っていくのでした。めでたし、めでたし。(Kudo 2003.12.6)