洟たれ小僧

boy むかし、むかし、ある所に貧しい男が住んでいました。男は、庭の花を売っては生活していました。「花、花、きれいな花はいらんかね。」
花がどんなにきれいでも、時々花が残ってしまいました。
そんな時、こう言って、花を海に投げ捨てました。
「竜宮のお姫さま、お花をあげます。」
ある日のことです。浜辺に立っていると、大きなカメが男の所にやってきました。
「花売りさん、竜宮に連れて行くよ。さあ乗って。」
「でも、むかし、浦島太郎と言う者が、そこに行って三日過ごしただけなのに、帰ってきたら三十年経っていたと言う話を聞いたことがある。年は取りたくねえだ。」
「あれは、昔の話さ。心配しないで。お姫さまが、お花のお礼を言いたいんだって。」
男は、竜宮に行くことにしました。入り口では、鯛や平目や海老や蛸やくらげや、色々な生き物が迎えてくれました。
「竜宮へようこそ。」と一斉に言うと、お姫さまの所に案内してくれました。
「花売りさん、何回もお花を頂き、本当にありがとうございます。お礼に子供を一人さしあげたいと思います。どうか家に連れて行ってかわいがって下さい。幸せになることでしょう。」
男は、その汚い子供を見ました。鼻水が出て、口からはよだれを垂らしていました。
とにかく、男は、かめの背中に乗り、子供と一緒に家に戻ると、その子を「トホウ」と名づけました。
「トホウ。俺の家は狭いけど、何ができるんだ。」
「僕が、いいよ、言うまで目を閉じてて。」と子供は言うと、手を三回叩きました。
「いいよ。」
old house 目を開けると、男は大きな家に座っていました。男は、新しい敷物や、引き出しや、着物や、お金や、欲しい物何でも手に入りました。もう働く必要はありません。
数年が過ぎました。男は、長者になり、女、賭け事、酒の日々を送っていました。
目障りなことは、洟垂れ小僧がいつも一緒にくっ付いていることでした。
「トホウ。鼻をかんだらどうだ。」
「鼻はかまないよ。」
「トホウ。よだれをふいたらどうだ。」
「よだれはふかないよ。」
「じゃ。竜宮にすぐ帰れ。もうお前など要らん。」
「わかった。」
小僧が家を出た途端、全てが昔のままになってしまいました。家も、着物も、夢だったかのように、元の姿に戻ってしまいました。
男は、どうしたらよいかわかりませんでした。途方(トホウ)に暮れていました。(2004.1.4)
kitanai