
キツネとクマ
むかし、むかし、キツネが森に住んでいました。そしてクマは、キツネの穴から遠く離れた山の中に住んでいました。
ある秋の日のことです。キツネは、初めてクマというものに出くわしました。クマはとても大きく、キツネは最初恐ろしく感じました。キツネは、クマがどういう動物か理解するために、しばらく注意深く見てみることにしました。じきにクマがそれほど獰猛(どうもう)でないことがわかりました。キツネは、少しずつ近づいて行き、クマに話しかけました。
「こんにちは、クマさん。とても元気そうね。クマさんは、畑作り好きかしら。」
「もち。キツネさん。好きだよ。」クマは笑いながら答えました。
「よかった。じゃ一緒に畑作りしない。」キツネがもちかけました。
「おもしろそうだな。」クマはニコッとしました。
「畑にできそうなところ探してくれる。クマさん。私、タネを集めてくるわ。戻ったら、一緒に耕してタネを蒔きましょうね。」とキツネは言うと、タネ集めに出かけて行きました。
クマは楽しくなって、上機嫌で仕事を始めました。回りの大きな木や小さな木を抜き、掘って、掘って、掘りぬきました。そして地面をならしました。キツネが戻ってきたときには、畑作りに丁度よい大きさの畑が出来上がっていました。
タネを集めて戻ったキツネは、クマの仕事ぶりを見て、喜びました。
「クマさん、すばらしい畑が出来たわね。」
キツネは、さっそくタネを蒔き始めました。しばらくすると、立ち止まり、クマに話かけました。
「いい考えが浮かんだわ。クマさん。いまにタネから芽が出て、葉っぱが繁って、実が生(な)るわ。クマさんは、地面の上の実を全部食べていいわ。私は地面の下の実を全部食べるから。どう。」
クマは果物を食べるのが大好きなので、すぐに合意しました。
数ヶ月が経ちました。クマは、葉が一杯繁っているのを目にしました。でもどう見ても大根です。地面の上に実は一つもありません。でも約束は約束です。クマは一つの実も食べられません。でもキツネは大根を全部食べたのでした。
春のある日のことです。味を占めたキツネは山のクマのねぐらを訪れました。クマはねぐらの中にいると思い、キツネは、ビクビクしながら、ねぐらを覗き込むと、こう言いました。
「去年は、ついてなかったね。もう1度、野菜を作らない。今度は、クマさんが地面の下のごちそうを食べていいよ。私は地面の上の実を食べるから。」
クマは新たな取り決めに合意しました。キツネがまたタネを集めている間に、クマは畑を耕しました。そしてキツネがタネを蒔き、クマは毎日水をまきました。数ヶ月が経ち、クマが野菜畑で見たものは葉っぱと葉っぱの間にある見事なイチゴでした。でもイチゴはキツネの取り分です。クマは地中に何かおいしいものはないかと、前足で掘って見ました。でも何もありません。クマの努力はまた水の泡です。クマは腹を立て、ずるいキツネの言うことは二度と聞かないと心に決めました。
数ヶ月後のことです。キツネがクマのねぐらをまた訪れた時、クマはキツネに気がつかないふりをしました。クマのねぐらの前で、キツネは大きな声で、こう話し始めました。
「ハチの巣、見つけたよ。」
ハチミツはクマの大好物です。クマはひそかに話に耳を傾けました。キツネは続けます。クマはだんだんと話に引き込まれていきます。
「やぶの中にあるの。クマさん。ハチの巣、とても大きいから、戻る前に誰かに見つけられてしまうかも知れないわ。急いで、ハチミツ取りに行きましょう。」
クマは幸せ一杯です。何の疑いも無くキツネについて行きました。やぶに着くと、ハチの巣は、キツネが言ったとおり、そこにありました。キツネはかしこまって言いました。
「クマさんが、ハチミツの一番美味しい所を最初に舐(な)めていいわ。好きなだけ舐めていいわよ。私、待ってるから。」
クマはうれしくてたまりません。前足をハチの巣に伸ばして、巣に舌を入れようとしたまさにその時です。ミツバチの大群がクマの回りを飛び始めました。クマは顔中ハチに刺されてしまいました。
「イタイ!」と叫ぶと同時に一目散にハチの巣から逃げ出しました。
音を立てながら、ハチが追ってきます。それを見て、キツネは舌なめずりをします。口にハチの巣をくわえると全速力で森のすみかに戻っていきました。
今度こそクマは激怒しました。キツネの振舞いは我慢の限界を超えました。
ある日のことです。クマは、これからやってくる冬眠の準備で、沢山の食べ物をお腹一杯食べるのに大忙しでした。その時です、食べ物が見つけられなくなったキツネが、食べ物を求めてクマの所へやってきました。みすぼらしいキツネを見て、クマは気の毒に思いました。川のほとりでウマが水を飲んでいたのをふと思い出しました。
「川に行くと、ウマが水を飲んでいるよ。君ほど頭は良くないと思うよ。君が馬の脚にでも噛みつけば、ひょっとすると倒れるかもしれないよ。そうなれば、あとは肉を今食べても良いし、この冬に向けて蓄えてもいいじゃないか。」
クマはキツネを親切に扱いました。そして昔の嫌な思い出はすっかり忘れてしまいました。キツネは今までまんまとクマをだませたので、ウマをだますのもいとも簡単なことと思っていました。
川のほとりでウマを見つけると、キツネはこっそりウマの後ろに回り、脚に噛みつこうとしました。その時です。ウマはキツネに気づき、キツネを空高く蹴飛ばしました。キツネは意識を失ってしまいました。
また春がやって来ました。川に水を飲みに来たクマは、キツネが枯草の上に横たわっているのを見つけました。(kudo)