狐の仕返し

むかし、むかし、年を取った和尚さんがある山の中腹の古びたお寺に一人で住んでいました。和尚さんの毎日はいたって簡単、托鉢(たくはつ)をしたり、頼まれれば法事をしたり、時には村人へ説法をしたりしていました。毎月、月初めがお説法の日でした。
ある日のことです。托鉢からの帰り道、あぜ道近くの池のそばで、何かが横になっているのがふと目に入りました。好奇心にそそられた和尚さんは、立ち止まって見ていました。まったく動く気配はありません。はて何だろう、和尚さんは近くにあった棒切れを拾うと突ついてみたくなりました。その得体の知れないものに一歩、ニ歩近づくと、突つくどころか、思いっきりひっぱたきました。狐は悲鳴をあげ、飛び上がると、やぶの奥深くへ逃げ込みました。
「は、は、は! 狐か。は、は、は!」と、大声で笑いました。
狐は昼寝をしていたのです。大怪我を負ったかもしれません。でも、和尚さんは、自分が狐に無慈悲なことをしたとは気づきませんでした。
次の日は月初めで、村人たちは、和尚さんの説法を聞きに、お寺に行くところでした。池の所に来ると、水面に何かが映っています。狐が後ろ足で立って、頭に葉っぱをのせていました。
「おい、狐が何かに化けようとしているぞ。」一人の村人がみんなにささやきました。
村人たちは近くの木の陰に隠れると、じっと見ていました。
狐の毛が、だんだんと和尚さんの衣(ころも)に変わり、頭もつるつるにはげてきて、歩いて行ってしまいました。
「驚いたな。いま見たのは、狐か、和尚か。」
「あいつ、お寺に行って、わしらをだまそうとしてるのかもしれん。」
kitune 「今度はだまされないようにこらしめてやろう。」
「捕まえて、縄で縛って、煙でいぶして、狐の化けの皮をはがそう。」
村人たちはそんな勢いでした。
お寺に着くと、和尚さんはすでに本堂に座って村人たちを待っていました。
「こんばんは。和尚さん。ここへ来る途中、狐を見ました。」そう言うと、和尚さんをじろじろ見ました。
「そうですか。私も昨日見ました。」和尚さんは静かに言いました。
「大きかったですか、小さかったですか。どこに行ったかご存知ですか。」村人が尋ねました。
「ふーむ、これくらいだったかな。でもどこに行ったかわからん。」
そうこうしている間に和尚さんは村人たちに取り囲まれてしまいました。興奮した村人たちは和尚さんを床に押し付けると、あっという間に縄で縛ってしまいました。
「な、何をする。」と和尚さん。
「しっぽを出せ、耳を出せ、いたずら狐め。」村人たちは、和尚さんをつついたり、ひっぱたいたり、けったり、耳を引っぱったり、いろいろです。
「痛い!やめてくれ。」
「ここへ来る途中、池で見た狐だな。うまく和尚さんに化けたな。いつまでも和尚でいる気なら、いぶして化けの皮をはぐまでだ。」
「狐ではない。和尚だ。」と、叫び声を上げました。
和尚さんは境内に引き摺り下ろされると、そこには松葉が高く積まれていました。松葉に火がつけられると、和尚さんはむせ始めました。ゴホン、ゴホン。
bousan どうしてこんなふうに罪人扱いされるのか、和尚さんは最初わかりませんでした。でも「狐」という言葉を聞いて、狐が仕返しをしているのかもしれないと思いました。
「もしそうなら、ここにいる村人は狐かもしれない。」と思うまもなく気を失いました。
その間、村人たちは和尚さんが狐に戻るのを今か、今かと待っていました。何の変化もありません。もうしばらく待ってみました。もしかすると本物の和尚さんかもしれないと、村人たちは思い始めました。
「見てみろ、ぜんぜん動かないぞ。」
「死んでしまうかもしれないぞ。どうしょう。」
「水をかけろ。早く!」村人たちは、和尚さんを助けようと一生懸命です。
「あ、よかった!目を開けたぞ。」
「ご無礼お許し下さい。狐が和尚さんそっくりに化けるのを見たものですから。てっきりそうかと思いまして。」
「ああ、いいよ。いいよ。大丈夫だ。そういえば、昨日、狐をひっぱたいたことを思い出したわい。あの仕打ちはあいつの仕返しかな。すまんが狐に油げを供えてくれんかな。そうすればわしらも二度と化かされることはないだろう。」
和尚さんは煤(すす)だらけの顔で言いました。(kudos)

Fox's Revenge