和尚さんと小僧さん

あま酒
pan むかし、むかし、山寺に和尚さんと小僧さんが住んでいました。和尚さんはたいそうけちで、檀家からのいただいた甘いものは決して小僧さんにはやりませんでした。
ある日、和尚さんは「あま酒」をもらいました。法事に出かける時、和尚さんは小僧さんにこう言いました。
「よく聞きなさい。これはあま酒という毒じゃ。もし飲んだらすぐに死んでしまうぞ。決して飲んではならんぞ。わかったな。」
小僧はんは一人になると、こう思いました。
「和尚さんは、飲んだらすぐ死んでしまう、と言ったけど、あれはうそで、僕に飲ませたくないんだ。」
なべのふたを開けると、人差し指でちょっとなめてみました。
「わう。こんなおいしいのはじめてだ。」。なめてはなめて、もう止まりません。
「うまい。もうちょい。」
とうとう最後までなめてしまいました。ちょっと心配になりました。
「和尚さんが帰ってきたらどうしよう。ひどく叱られて叩かれちゃうよ。どうしょう。」
しばらくすると、名案が浮かびました。
お寺には粘土で作られた大きな達磨がありました。小僧さんは達磨を蹴っ飛ばしてボコボコにしてしまいました。
和尚さんが帰ってくると、小僧さんは上がり口に座って泣いていました。
「おまえ。どうしたのだ。どうして泣いてる。何があったんだ。」
「和尚さん。すみません。部屋の掃除をしている時、達磨を壊してしまいました。もう生きていられないと思いまして、飲んではいけない、あま酒を飲んでしまいました。でもいくら飲んでも死ねません。」
和尚さんは大声で笑うと、こう言いました。
「おまえはなかなか頭がいいな。は、は、は。でもおしおきだ。」

おはぎ
ohagi むかし、むかし、山寺に和尚さんと小僧さんが住んでいました。和尚さんはたいそうけちで、檀家からのいただいた甘いものは決して小僧さんにはやりませんでした。
ある日、和尚さんは「おはぎ」をもらいました。法事に出かける時、和尚さんは小僧さんにこう言いました。
「よく聞きなさい。これはおはぎという毒じゃ。もし食べたらんだらすぐに死んでしまうぞ。決して食べてはならんぞ。わかったな。」
小僧はんは一人になると、こう思いました。
「和尚さんは、食べたらすぐ死んでしまう、と言ったけど、あれはうそで、僕に食べさせたくないんだ。」
戸棚を開けると、つまんで食べてみました。
「わう。こんなおいしいのはじめてだ。」食べては食べて、もう止まりません。
「うまい。もう一つ。」
とうとう最後まで食べてしまいました。ちょっと心配になりました。
「和尚さんが帰ってきたらどうしよう。ひどく叱られて叩かれちゃうよ。どうしょう。」
しばらくすると、名案が浮かびました。
小僧さんはあんこを本堂の仏像さんの口元に塗り付けました。
和尚さんは帰ってくると、戸棚を開け、おはぎが無くなっているのに気がつきました。
「小僧。おはぎはどうした。」
「何のことでしょう。」
「ここにはお前しかいない。お前の他に誰が食べられる。猫やねずみが戸棚を開けるはずがな。お前しかいない。」と和尚さんはカンカンに怒って、棒を取ると小僧さんを叩きました。
「和尚さん、僕ではありません。他に食べられるものがいます。」
「一体誰だ。」
「仏像さんだと思います。仏像さんが戸棚を開けて、おはぎを食べるのを見ました。嘘だと思うのなら、仏像さんに聞いて見てください。」と真顔で言いました。
和尚さんと小僧さんは本堂に行くと、小僧さんは仏像を指差してこう言いました。
「和尚さん、おはぎを食べたのはあの仏像さんです。口の周りを見てください。あんこがついています。」
和尚さんは仏像の前に行くと、こう言いました。
「仏様、おはぎを食べたのは本当でしょうか。」
もちろん、仏像が答えるわけがありません。
「仏様、おはぎを食べたのはあなたでしょうか。」ともう一度聞きました。
もちろん、仏様が答えるわけがありません。
「仏様、お答えなくても、口元にあんこがついております。」と和尚さんはカンカンに怒って、棒で仏像の肩を叩きました。
「クワーン」(食わん)
「食わん。わかりました。小坊主。仏様は食べてないとおっしゃってるぞ。」
小僧さんは和尚さんに言いました。
「和尚さん、仏像さんは、叩かれても本当のことは申しません。水の中に入れれば、本当のことを言うと思います。」
二人は、仏像さんを池まで運ぶと、その中に立たせました。
仏像さんには足に小さな穴が開いていました。そこから水が音を立てて入っていきました。
「クッタ、クッタ、クッタ」(食った)
その音を聞いて、小僧さんは和尚さんにこう言いました。
「和尚さん、仏像さんが『食った、食った』て言っています。」
和尚さんは大声で笑うと、こう言いました。
「おまえはなかなか頭がいいな。は、は、は。でもおしおきだ。」

うなぎ
eel むかし、むかし、お坊さんは生魚を食べることは許されませんでした。生き物を殺すのは殺生だからです。
冬のある日、和尚さんはある檀家に出かけました。
「年をとると、寒さが体にこたえる。」と和尚さんは家の主に言いました。
「和尚さん、うなぎを食べたらいかがですか。おいしくて、体にもいいですよ。」
和尚さんは、どうしてもうなぎが食べたいと思いました。お寺に帰ると、小僧さんを呼びました。
「お前、寒いけど、町に行ってうなぎを買って来ておいで。うなぎを薬にしたいと思う。」
小僧さんは、和尚さんはうそをついてる、と思いましたが、町に出かけました。
町からお寺に戻ってくると、小僧さんは、和尚さんが人と話をしているのを耳にしました。
「お客さんのいる前にうなぎを持って行ったら、和尚さん何て言うかな。困らせてやろう。」と思うと、さっそくうなぎを客間に持っていきました。
「和尚さん、お薬買って参りました。」
和尚さんは困ったような顔つきで、小僧さんに言いました。
「お前。これは薬ではなくてうなぎというものだ。すぐに池に放してあげなさい。」
和尚さん何とがっかりしたことか。

もち
master and child むかし、むかし、山寺に和尚さんと小僧さんが住んでいました。和尚さんはたいそうけちで、檀家からのいただいた甘いものは決して小僧さんにはやりませんでした。
ある晩、和尚さんは部屋で一人、「火鉢」で「もち」を焼いていました。小僧さんは襖の隙間からのぞいていました。
「焼けたぞ。おいしいぞ。」と熱い餅を口にほおばりながら言いました。
「フウー、フウー」と食べる前に、餅を冷ましていました。
小僧さんも食べたくて仕方ありません。しばらくすると、名案が浮かびました。
次の晩、小僧さんは和尚さんに言いました。
「和尚さん、お願いがあります。今日から私のことを、フウーフウーと呼んでください。」
和尚さんは、何かおかしいな、とは思いましたが、餅を食べるのが先決でした。
「いいだろう。これからはフウーフウーと呼ぶことにしてあげよう。さあ、寝る時間だ。床に入りなさい。」と言うと、自分の部屋で餅の準備を始めました。
「焼けたぞ。おいしいぞ。」と熱い餅を口にほおばりながら言いました。
「フウー、フウー」と食べる前に、餅を冷ましていました。
すると、小僧さんは襖を開け、部屋に入ってきました。
「はい、何でしょうか。」
「何のようだ。お前など呼んでおらんぞ。」たいそう驚いて、腰を上げました。
「今、フウーフウーと呼びました。」
和尚さんは大声で笑うと、こう言いました。
「おまえはなかなか頭がいいな。は、は、は。」と言うと、餅を一口小僧さんにあげました。(2003.12.28)


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