食わず女房

yamamba むかし、むかし、いまだ身を固めていない独り者がおりました。
ある日のこと。男は木を切りに出かけた時、仲間に言いました。
「飯を作って、洗濯をしてくれる妻が欲しいな。だが貧乏で食べる物もない。いっそ何も食べない妻が欲しいものだ。」
数日後、男の所に若い娘がやってきました。
「私は何も食べません。一緒になってくれませんか。」
一緒になってみると、確かに女は、朝も昼も夜も、ご飯一粒食べません。
しかし、女が来てからというもの、米びつの米も、つぼに入った味噌もいやに少なくなっていました。
男は不思議に思っていました。
「町に出かけてくる。」と言うと、夫は出かけるふりをして、妻が厠(かわや)に入っている隙に屋根裏に隠れました。
穴から覗くと、女は米びつから米を、つぼから味噌をごっそり取り出すと料理をし始めました。
食事が出来上がると、女は髪をとかし始めました。何と驚いたことに、頭に大きな口がぽっかりあいています。女は山姥(やまんば)だったのです。ご飯と味噌汁を口にどんどん入れていきます。
iris 秘密を知った男は、女に言いました。
「お前は何も食べないと言ったが、正体がわかったぞ。すぐに出て行け。」
「いいわ。でもあの大きな風呂が欲しいな。」
「欲しければ、持って行け。」
女は、風呂桶を覗き込みながら言いました。
「虫が入ってる。出してくれない。」
男が風呂桶を覗き込んだ瞬間、女は後ろから男を風呂桶に押し込めて蓋をしました。
女は山姥に身を変えると、風呂桶もろとも男を担いで、山に急ぎました。そして仲間に大声で言いました。
「ごちそうを持ってきたわ。早くおいで。」
桶からの脱出方法を考えていた男は蓋をあけ跳び上がると木の枝に掴まりました。脱出に成功し、男は逃げます。山姥が追いかけます。
やぶに逃げ込むと、そこには菖蒲(しょうぶ)が沢山生えておりました。山姥はその植物が大嫌いです。
「駄目だ。あの草には毒がある。体が溶けてしまう。ここまで。」
山姥は、山に戻りました。(kudo)

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