海ひこ山ひこ

sea むかし、むかし、ある所に兄と弟が住んでおりました。兄は魚釣りが得意で、毎日海に出かけました。兄は「海ひこ」と呼ばれました。
弟は狩が得意で、毎日山に出かけました。弟は「山ひこ」と呼ばれました。
ある日のことです。山ひこは海ひこに言いました。
「魚釣りをしたことがないから、一度海で魚釣りをやってみたい。お前も釣り竿を弓矢に換えて山で狩をしてみないか。」
「どうしてもと言うなら、一回だけ。」と山ひこも賛成しました。
海ひこは山へ、山ひこは海へ出かけました。
海ひこは、山で懸命に狩をしても、獲物は捕まりませんでした。
山ひこは、産まれて初めて魚釣りをしましたが、一匹も魚は釣れませんでした。さらに悪い事に、大事な釣り針を海に無くしてしまいました。
「兄貴、釣り針を無くしてしまいました。ごめんなさい。」
「何だと。釣り針を無くしただと。」海ひこは怒りました。
山ひこは何度も謝りましたが、海ひこは許してくれませんでした。そして見つけてくるよう命じました。山ひこは自分の剣から釣り針をたくさん作りましたが、兄はどうしても許してくれませんでした。
「この釣り針を使ってください。」
「だめだ。あの釣り針でなければだめだ。」
山ひこは、海を眺めながら、泣きながら、考えにふけり、しばらく浜辺に座っていました。すると、おじいさんがやって来て、こう言いました。
「何があったのかな。何を泣いているのかな。」
おじいさんは、海のことなら何でも知っていました。山ひこはこれまでのことをおじいさんに話しました。
「なるほど。いいことを教えてあげよう。」おじいさんは、そう言って、丸太舟を持ってきました。
「島が見えるまで、この舟を漕いでいきなさい。そこにあるお城の門の前で人を待ちなさい。」
山ひこは舟を漕いで行くと、お城がありました。門の前で人が来るのを待ちました。
すると水入れを持った娘さんが通りすがりました。山ひこは声をかけました。
「すみません。喉が渇いています。水を下さい。」
山ひこは、水をもらうと、お礼に首飾りをあげました。娘さんは、お城のお姫様に仕える女中でした。娘さんは、首飾りをお姫様に見せました。お姫様は、そんなすばらしい首飾りを見たのは初めてだったので父親である王様の所へ、それを持って行きました。王様は入念にそれを眺めると、こう言いました。
「これは素晴らしい。その男は只者ではない。連れて来なさい。」
山ひこはお城に招かれると、毎日手厚くもてなされました。
数日後、王様は山ひこに言いました。
「お前を娘の夫として迎えたい。」
結婚してからあっという間に一年がお城で過ぎました。
ある日のことです。山ひこは、兄や古里を思い出し、ため息をついているのを妻に見られました。「何か悩み事があるのでしょうか。」とお姫様。
山ひこは、いままでの経緯(いきさつ)を妻と父親に話しました。王様は家来に釣り針を見つけるよう命じ、ついに針を見つけました。
mountain 山ひこは,針を兄の所へ返しに行くことにしました。しばし妻と別れる時、妻は夫に二つの玉を渡しました。
「お兄さんにひどい仕打ちを受けたら、この玉を使ってください。青い玉は水玉で、水をもたらします。黄色い玉は干玉で水を止めてくれます。」
山ひこは、さめの背中にまたがり兄の所へ戻りました。
「兄貴、釣り針が見つかりました。」山ひこは、釣り針を兄に戻しました。
海ひこはさっそく釣りに出かけました。でも一匹も釣れませんでした。
「お前は釣り針を壊したな。」と兄は言うと、釣り仲間と一緒になって弟に襲いかかりました。
山ひこは、青い玉を取り出すと叫びました。
「水よ。出て来い。」あっという間に水があふれてきました。
「助けてくれ。悪かった。」海ひこは叫び、山ひこに詫びました。
山ひこは黄色い玉を取り出すと言いました。
「水よ。止まれ。」あっという間に水は無くなりました。
それからは、海ひこと山ひこは仲直りをし、幸せな生活を送りました。(2004.8.7)日本神話より

two brothers