
赤ん坊になったお爺さん
むかし、むかし、ある所に、おじいさんとおばあさんが幸せに暮らしていました。おじいさんもおばあさんも、とても歳をとって、歯は抜けて、耳も遠く、腰も曲がっていました。
「おばあさん、こんな歳をとってまで生きたくないね。もう一度若くなりたいね。」
「おじいさん、その通りだね。私も、若く、美しく、元気になりたいね。」
ある朝のことです。おばあさんは、杖をつきながら町へ買い物に出かけて行きました。一時(ひととき)後、おじいさんは、入り口で、明るい若い声がするのを聞きました。
「ただ今。」
「おばあさん、大変だったかい。」とおじいさんは言うと入り口に行きました。
何と、昔愛した美しい妻がそこに立っているではありませんか。
「おっと。何ということ。」おじいさんは、目をこすりながら言いました。
妻は、クスクス笑いました。
「お前さんは本当にわしの妻かい。着ているものも同じ、声も同じ。何だってそんなに若くなったんだい。」
「おじいさん、実はね、町からの帰り道、松の根元の岩の間から清水が湧き出ていたの。喉が渇いていたので、足を止めてちょっと飲んだの。そしたら突然腰が真っ直ぐになって、歯も生えてきて、物もはっきり見えるようになったの。」とはっきりした声で言いました。
「お前さんも飲みに行ったらどうだい。私のように若くなれるわよ。」
「奇跡じゃ。直ぐに行って来るよ。お前よりもっと若く元気になってくるからな。」
おじいさんは、杖をつきながらよろよろと出かけていきました。
夕方になりました。でも戻ってきません。とうとう、夜になりました。
「どうしたのだろう。見つけに行って来ましょう。」
妻が松の根元の所に着くと、泉のそばに、泣いている赤ん坊がいました。夫と同じ着物を身につけているではありませんか。おじいさんは水を沢山飲みすぎて、赤ん坊になってしまったのです。妻は、驚き、赤ん坊を腕の中に抱き上げました。
「ほら、泣かないで。いい子だから。妻ですよ。」
妻は、赤ん坊になったおじいさんをとても愛し、大事に育てました。(2004.12.10)