藁靴をはいた猫

cat むかし、むかし、一人の貧しい農夫が突然亡くなりました。彼には三人の息子がおりました。長男は家と水車小屋をもらいました。次男は馬をもらいました。が三男は猫を一匹もらっただけです。
「僕は不幸だな。兄は助け合って水車小屋で小麦粉を作ることが出来る。でも僕は、この小さな猫と餓えて死ぬしかない。」
その時です。猫が話しました。
「ご主人様、そんなにがっかりしないで下さい。私が貴方を、幸せにお金持ちにして差し上げます。私は賢い猫です。考えがあります。私に大きな布袋と藁靴を作ってください。」
藁靴をはいた猫は、背中に袋を背負って、軽快に林の方に出かけていきました。
猫は袋にニンジンを入れると、うさぎが来るのを待ちました。
「愚かなうさぎさん。こっちに来てニンジンを食べなよ。」
うさぎが袋に飛び込みました。猫はすぐに捕まえると領主の所へ袋を担いで行きました。
「領主様、主人からの贈り物です。」
領主はたいそう喜び、猫にお礼を言いました。
daughter その後も森の中で動物を捕まては、「主人からの贈り物です。」と言って、度々領主の所へ持って行きました。
ある日のことです。猫は主人に言いました。
「領主さまが美しい娘さんを連れて森に来ます。考えがあります。私が言う通りにして下さい。川で泳いでいて下さい。いいですか。」
「わかった。」とご主人。
しばらくすると、牛に引かれた帆車が川の所を通り過ぎました。その時です。猫が大声で叫びました。
「助けて。助けて。主人が大変です。溺れています。助けて下さい。」
「あれはわしに贈り物を持ってくる猫だ。直ぐに主人を助けなさい。」と家来に命じ、主人を助けました。
「主人を助けていただき誠にありがとうございます。でも主人は泥棒に服を盗まれてしまいました。」と猫が言いました。
「それは気の毒じゃ。私の着物をあげよう。」と言うと、家来に命じて着物を取り出しました。
素敵な着物を着た主人はとても男前に見え、娘さんは一目で恋に落ちてしまいました。
娘さんは父親に言いました。
「あの人をこの車に乗せていいですか。」
「よかろう。」
猫は先回りをして、田んぼで働いているお百姓さんの所へ行って、こう言いました。
「領主さんがまもなくやって来ます。『ここは誰の田んぼだ。』と聞かれたら『ここはご主人のものです。』と答えてください。そうしないと、ひどい目に合いますよ。」
お百姓さんは、とても驚き、猫に言われたように答えました。
次の畑でも、猫は同じことを言いました。
「ここは誰の畑だ。」
「ここは猫の主人のものです。」
領主は猫の主人に言いました。
「お前は畑を沢山持っていますね。」
「はい、毎年収穫がたくさんあります。」と誇らしげに答えました。
wedding 猫は「鬼」が住んでいる大きな屋敷まで走っていきました。
「鬼さん。聞きたいことがあります。鬼さんは何にでもなれると聞きましたが、ライオンや象のような大きな動物になれるのですか。」
「朝飯前よ。ライオンになって見せよう。」
猫は、ライオンを見て、たいそう驚き、天井に飛び上がりました。
ライオンが元の鬼に戻ると、猫は天井から降りてきました。
「びっくりしたな。凄い。」猫は鬼をほめました。
「でも、ネズミのような小さい動物にはなれないのでしょう。」
「なれないだと。見てろ。」と鬼は怒って言うとネズミになり床をぐるぐる走り出しました。
「しめた。」猫は思うと、ネズミに飛びかかり食べてしまいました。
領主と家来がその家に立ち寄りました。
「これは誰の家だ。」
「これは私の主人のものです。」と猫は誇らしく答えました。
酒肴用の豪華な食事が用意されていました。娘さんは猫の主人といられることがとても幸せでした。父親も彼を娘の夫にと考えるようになりました。
「娘と結婚してはいかがかな。」
ご主人は猫のおかげで幸せに、そしてお金持ちになりました。猫ももうネズミは追いかけません。(2004.7.21)

A cat in long boots