
ネズミ経
むかし、むかし、ある所に、とても信心深いおばあさんがすんでいました。でもおばあさんは、字が読めないので、お経は知りませんでした。
ある日の夕方のことです。旅人がおばあさんの所へ尋ねて来ました。
「ごめん下さい。泊めてもらえますか。もう暗くて足元がわかりません。」旅人は、入り口で言いました。
「お経を教えてくれたら、泊めてもいいよ。」
「了解。」とは、言ったものの、本当は旅人もお経は全く知りませんでした。
床に入る前に、おばあさんにお経を教えなければなりません。すると、ネズミが天井の穴から出てきて、あちこち動き回っているのが見えました。
「アチコチウゴキマワル。」旅人は教えました。
ネズミが穴に入ると、また出て来ました。
「マタアチコチウゴキマワル。」
ネズミが穴の中を覗き込むと、別のネズミが出てきました。二匹が中を覗きました。
「ニヒキガアナヲノゾク。」
二匹のネズミは何かを話しているようです。
「ナニカヲハナシテイル。」旅人はお経を終えました。
おばあさんは、それからは朝に晩に、毎日お経を読んで幸せでした。
「アチコチウゴキマワル。マタアチコチウゴキマワル。ニヒキガアナヲノゾク。ナニカヲハナシテイル。」
ある日のことです。泥棒が二人、おばあさんの家に忍び込もうとしていました。
一人が入ろうとしていた時、おばあさんが言いました。
「アチコチウゴキマワル。」
泥棒は驚いてちょっと後ずさりしました。そして再び入ろうとしました。するとおばあさんが言いました。
「マタアチコチウゴキマワル。」
泥棒は仲間を呼ぶと、入り口の穴から部屋の中を覗き込みました。
「ニヒキガアナヲノゾク。」
「あの婆(ばばあ)、何でもわかっているようだ。この家に入るのはよそう。」泥棒が言いました。
「俺もそう思う。別の家に行こう。」
「ナニカヲハナシテイル。」
泥棒はあわてて、おばあさんの家から逃げました。(2004.12.6)