
お絹
むかし、むかし、養蚕で有名な村に「きぬ(絹)」という美しい娘さんがいました。春になると、沢山の出稼ぎがこの村にやってきました。
娘さんは、とても働き者で、手伝ってもらった農家では、上質の繭(まゆ)が取れました。
蚕がいなくなる秋になると、出稼ぎは帰って行きました。農家では、お礼の気持ちを込めて、美味しい食事を出して、送別会を持ちました。
娘さんが、何処から来て、何処に帰るのか、知る者はいませんでした。
「あの子は、きれいで働き者だが、生い立ちを話したことはない。」と、農家では不思議に思いました。
娘さんが村を去る日が来ました。多くの村人が見送る中、村を後にしました。
「どこに行くのだろう。」と思い、こっそり後をつけてみました。
すると、娘さんは、湖の近くで突然姿が見えなくなると、白蛇が湖に落ちるのを目にしました。
春がまたやって来ましたが、娘さんはやって来ませんでした。ただ、家の中で白蛇が度々目撃されました。みんなはこう思いました。
「娘さんは白蛇になって、蚕をねずみから守っているに違いない。」
農家では、毎年、春になると娘さんの姿をした小さな人形を作り、神棚に置き、秋になると湖に人形を戻しました。(2004.8.5)