おむすびころり

rice ball 昔、昔、ある所におじいさんとおばあさんが住んでいました。二人はとても親切で正直で、働き者でしたので、みんなから「仲のいい二人」と呼ばれていました。
ある日のことです。いつものようにおじいさんは、おばあさんがつくってくれた大きなおむすびを持って、山へたきぎを取りに出かけました。午前中ずっと働いて、おじいさんはお腹がぺこぺこです。仕事のあと、おむすびを食べるのがおじいさんの一番の楽しみでした。近くの切り株に腰掛けると、おむすびを取り出しました。ところが、食べようとした時、おむすびは、おじいさんの手からすべり落ち、地面に落ちてしまいました。すると、おむすびは坂を転がり始めました。
「ちょっと待ってくれ、ちょっと待ってくれ、おむすびさん。おばあさんがつくってくれたおむすびさん。」と大きな声をあげながら、おじいさんはおむすびを追いかけました。でもおむすびはいきおいよく転がって行き、おじいさんにはとても追いつけません。やがておむすびは坂の下の大きな穴に入ってしまいました。
「あれまあ、こんな大きな穴がここにあるとは知らなかったな。」とおじいさんは言うと、穴の中をのぞいて見ました。すると歌が穴から聞こえてきました。
「おむすびころり、ころ、ころり。」とても楽しそうできれいな歌声だったので、おじいさんはもっとよく聴こうと穴の中に体をかがめました。穴の中に耳を傾け、もっとよく聴こうとしました。でも歌は終わってしまいました。さらに頭を穴の中に入れると、おじいさんは穴の中にすべり落ちてしまいました。すると、こんな歌が聞こえてきました。
「おじいさんころり、ころ、ころり。」
おじいさんはあたりを見回しました。おじいさんが座っているところは確かに穴の底でした。でもそこは大きな広間のように見えました。驚いたことに、沢山のねずみがそこで働いていました。一匹の白ねずみがおじいさんの所へ近づいて来て、こう言いました。
「ようこそねずみの里へ、おじいさん。大きなおむすびありがとうございました。おばあさんが作ってくれたのでしょう。ねずみ一同大変喜んでいます。お返しにお昼を召し上がってください。」
ねずみはみんな楽しそうに働いています。唄を歌いながらおもちをついています。
「ねこがいなけりゃ静かだな、ここはいいとこ、ねずみの国さ。ソレつけ、ヤレつけ、どっこいしょ。」
やがて、つきたてのおもちと料理がおじいさんの所に運ばれてきました。
おもちを一口食べて、おじいさんは「こんなおいしいおもちは初めてじゃ。」と言いました。おじいさんは出された料理は全部たいらげました。すると白ねずみが小さくてかわいい箱を持ってきました。おじいさんに手渡しながらこう言いました。
「これは、おばあさんに渡してください。とてもおいしいおむすびだったと伝えてください。みんな感謝しています。」と。
さて、おばあさんは、まだ家に帰ってこないおじいさんのことが心配でたまりませんでした。おじいさんが箱を持って帰ってきたときは、ほっとしました。おじいさんは、おばあさんを安心させると、帰りがおそくなったわけを話しました。そしてもらってきた箱を開けると、驚いたことに、お金と宝石が入っていました。それは、ねずみの宝箱だったのです。

さて、話はこれで終わりではありません。仲のいい二人のとなりに、別のおじいさんとおばあさんが住んでいました。お分かりのように、今度のふたりは親切でも正直でも、働き者でもありません。ふたりは隣の家の会話を盗み聞き、自分たちも箱が欲しくなりました。
次の朝、おじいさんは、おばあさんにつくらせた大きなおむすびをもって同じ山に出かけました。そして話に聞いた大きな穴をあちこちさがしました。山のてっぺんから、坂の下まで、隅から隅まで探しました。そして、やっと見つけ出しました。
「これが、あの穴じゃな」と言うと、さっそくおむすびを穴の中に落としました。すると、まもなく歌が聞こえてきました。
「おむすびころり、ころ、ころり…」おじいさんは、にたっと笑うと、歌の最後まで聞かずに穴に滑り込みました。ドスンと穴の底にしりもちをつきました。周りを見渡すと沢山のねずみが唄を歌っておもちをついていました。
mouse 「これがあの場所だな」と思うと、しばらく唄を聴いていました。ねずみたちはおじいさんをちらっと見ただけで、忙しく働いていました。唄を歌いながら、おもちをついていました。
「ねこがいなけりゃ静かだな、ここはいいとこ、ねずみの国さ。ソレつけ、ヤレつけ、どっこいしょ。」
おじいさんは、ねこのまねをすれば、宝箱が手に入ると、考えました。そこで、「ニャーン、ニャーン」となきました。
突然、あたりが変わりました。ねずみたちは一瞬の間、凍り付いてしまいましたが、次の瞬間、一匹のねずみが叫びました。
「ねこだ、ねこが来た!」
別のねずみが叫びました。
「ねこを入れるな。入り口を閉めろ。」
ねずみたちは目にもとまらぬ速さで動き始めました。あたりは混乱状態でしたが、しばらくすると真っ暗になり静かになりました。
おじいさんは一人残され、暗闇でぼう然としていました。どうしたらよいのかわかりませんでした。でもここで死ぬのはまっぴらです。おじいさんは、ねずみの国から逃れようと素手で必死に上の方へ掘り始めました。
さて、おばあさんは、年老いて、杖がなくては歩けません。しかし、ねずみの宝箱の期待が大きくて、おじいさんの帰りを家で待っている気にはなりません。杖をつきながら、おばあさんは山に向かいました。山のふもとに着いた時には、疲れてもう歩けません。気持ちとは反対に、おばあさんはそこでちょっと休むことにしました。その時です。おばあさんは、目の前の地面が膨れて、動いているのを目にしました。
「畑を荒らすモグラじゃな。憎いやつ。思い知らせてやる。」
おばあさんは、杖で思いっきりそこをたたき始めました。
「やめてくれ。いたっ。いたっ!」と叫ぶと、おじいさんが地面から顔を出しました。
おばあさんは、かわいそうに、ショックでぼう然としてしまい、顔中泥だらけのいじわるじいさんを見られませんでした。その上、おじいさんの頭はこぶだらけです。
ふたりはしばらく、言葉も出ませんでした。 (2003.4.1 Kudo)
Obusubi Rolling Down