
番町皿屋敷
むかし、むかし、ある国の武家屋敷に一人の娘さんが仕えておりました。主は十枚の皿を大事にしていました。
ある日のことです。娘さんは、お皿を一枚盗んだ、と奥様に咎められ、主からひどく鞭でうたれました。もちろん娘さんは決して盗みなどしておりませんでした。無実を晴らす手段もなく、娘さんは井戸に飛び込んでしまいました。
実は、奥様が皿を割ってしまい、その割れた皿を井戸に投げ入れたのでした。
娘さんが死んで数日経った夏の暑い日のことでした。夜な夜な幽霊がその井戸に現れ、皿の枚数を数え始めるのです。悲しい、苦しそうな声で。
「一枚、二枚、三枚・・・」
「九枚」まで数えられるのですが、どうしても「十枚」が言えず泣き出します。そして井戸の中に消えていきます。
この奇妙な出来事は毎晩おこり、いつしか、そのお屋敷は「皿屋敷」と呼ばれるようになりました。
主は、このことにひどく気を病み、仲間に助言を求めました。
「きっと娘さんは成仏できないのでしょう。私がその幽霊を清めてしんぜよう。」と彼が言いました。
その晩のことです。彼は井戸の近くに身を隠すと幽霊が出てくるのを待ちました。案の定、長い髪を垂らし、両手を下げた、白い着物をきた、娘さんの幽霊が出てきました。そしていつものように数え始めました。
「一枚、二枚、三枚・・・」
「九枚」まで数えた時のことです。彼は「十枚」と叫びました。幽霊は一瞬にして消え去りました。その後、二度と幽霊が出てくることはありませんでした。(2003.12.27)