鬼は内、福は外

mamemaki むかし、むかし、ある所に貧しいお百姓さんとそのおかみさんが住んでいました。今日は節分です。でも貧乏で、家から鬼を追い出す豆もありません。
「福は内、鬼は外。鬼は外、福は内。」元気な声が隣りから聞こえてきます。
「わしも豆をまきたいの。」とお百姓さんが言いました。
「私もよ。でも豆がないわ。情けないね。」とおかみさん。
「真似だけはできるさ。」と、お百姓さんは空の枡をを持って立ち上がりました。
「福は外、鬼は内。鬼は内、福は外。」と必死に叫びました。
家の外で、赤鬼さんと青鬼さんが、それを聞きました。二人は大嫌いの豆を投げつけられ家々から追い出されてしまったのです。
「逃げ込むのにもってこいの家を見つけだぞ。」と鬼達はその家に飛び込みました。
「お、お、鬼が来た。」とお百姓さんとおかみさんは、たいそうビックリして腰が抜けてしまいました。
「恐がることはない。俺達は、どこへ行っても豆を投げつけられ、追い出されてしまう。どこにも行くところがない。この家には豆がない。しばらくおかせてくれ。」
「だ、だ、だめです。」とお百姓さんは首を振りました。
「じゃ、どうして『鬼は内』と言った。」鬼は、お百姓さんをにらみつけて言いました。
「そ、それは・・でも寝る布団がありません。」お百姓は首を振り振り言いました。
「それに、食べる米もありません。」とおかみさん。
赤鬼は、これを聞くと笑って言いました。
「心配するな。お前に俺の虎の短パンをやる。米屋に持って行って米と換えてこい。」赤鬼は短パンを脱いでおかみさんに渡しました。
おかみさんは、鬼の虎の短パンを持って町の米屋に出かけました。
「何、これは本物の赤鬼の短パンか。」と主人は言うと、しばらく念入りに見たり、触ったりしました。「とにかく、この虎の短パンは最高だ。」
主人は、おかみさんに籠一杯の米を渡しました。
その晩、おかみさんは米を炊き、鬼は米を全部食べきってしまいました。
次の朝、おかみさんが鬼に言いました。
「もう米を食べきってしまいました。もうお帰りになって下さい。」
青鬼は、これを聞くと笑って言いました。
「心配するな。お前に俺の熊の短パンをやる。また米屋に持って行って米と換えてこい。」青鬼は短パンを脱いでおかみさんに渡しました。
おかみさんは、さっそく青鬼の熊の短パンを持って町の米屋に出かけました。
「何、これは本物の青鬼の短パンか。」と主人は言うと、しばらく念入りに見たり、触ったりしました。「とにかく、この熊の短パンは最高だ。鬼の短パンが二つも手に入るとはな。家の家宝にしよう。」
主人は、嬉しくて、馬を借りてくると、馬が運べるだけの米を乗せてあげました。
おかみさんは、お昼に米を炊きましたが、鬼は全部たいらげてしまいました。
でもお米はまだ沢山残っています。
おかみさんは考えました。「晩ご飯には、ご飯とおいしいおかずも出したいな。」
おかみさんは、お米を売って魚と野菜と酒を買いました。 「うわ。すごい。」と、鬼達は食卓の上に載っている山のような食べ物に驚きました。
「ご飯とお酒、好きなだけ召し上がってくだされ。」とおかみさんは鬼に酒をつぎました。
「今夜は豪華な祝宴じゃ。お前達も、食って飲め。」と赤鬼が二人に言いました。
demon 赤鬼と青鬼は、しらばくすると歌ったり踊ったりし始めました。お百姓とおかみさんもそうしました。
次の朝、節分も終わり、辺りは静まり帰っていました。
「節分も終わった。山に帰る頃じゃ。」と赤鬼。
「豆まきされずに、ここで数日の素晴らしい日々を過ごせた。」と青鬼。
「もし、良かったら、好きなだけここに居て下さっても結構ですよ。」とおかみさん。
「ありがとうごぜいますだ。私どもも腹一杯食べたり飲んだりすることができましただ。米がなくなるまでここに居てくだされ。」とお百姓さん。
「残念ながら、それはできん。米をお金にかえろ。そのお金で一生懸命働け。」と赤鬼。
「鬼でも貧しい人間は助ける。」と青鬼。
鬼達は静かに家をあとにしました。
お百姓さんとおかみさんは、鬼に言われたように一生懸命働きました。そして、まもなく村一番のお金持ちになりました。めでたし、めでたし。(2004.1.25)

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