
松竹梅
江戸時代、お人よしでちょっと間の抜けた三人がおりました。三人はとある長屋で暮らしておりました。三人の名は、松、竹、梅でありました。その三つの木、松竹梅は日本では福をもたらすと信じられております。
近くに伊勢屋さんというお店があり、店の主人はたいそう金持ちで長者と呼ばれておりました。
ある日のこと、三人は、お嬢さんがお婿さんを迎えるということで、伊勢屋さんよりお招きにあずかりました。三人にとってそのような席に出るのは初めてのこと、どうしたものか見当がつきませんでした。そこで三人は、近所のご隠居さんに教えをこうため出かけて行きました。
「三人で余興をやって婚礼を盛り上げようと思いましてね。何をやったらいいか教えてもらえないでしょうか。」
「おお、そうですか。お前さんたちの名前を合わせると松竹梅、それだけでもいいご祝儀のことばになるだろうが、お前さんたち、それにおめでたい口上を述べるのはどうだろうか。間違えるといけませんから短いのにしてあげましょう。」
ご隠居さんは、三人がたいそうそそっかしいのをご存知でしたから。そこで、しばし考えてこう言いました。
「松っさん。お前さんがまず最初です。こう言いなさい。#なった、なった、じゃ(者)になった、当家のむこ(婿)殿、じゃになった、よろしいかな?」
「#なった、なった、しゃになった。」
「いや。いや。『しゃ』じゃなくて、『じゃ』です。もう一回やりますよ。#なった、なった、じゃになった。当家のむこ殿、じゃになった。」と、ご隠居さん。
「#なった、なった、じゃ(者)になった。当家のむこ殿、じゃになった。」松っさんが繰り返します。
「よし、いいでしょう。竹さんが次ですよ。よろしいかな?こう言いなさい。なんのじゃになーられた。」
「よしきた、朝飯前だ。#なみのじゃになーられた?」
「それじゃ、なんのことかわかりません。『#なんのじゃになーられた?』です、いいですか?最後は、お前さん、梅さんですよ。短いですが、ここが肝心なところです。『#長者になーられた。』ここで三人そろって『おめでとうございます。』と言いなさい。きっと婚礼のいいご祝儀唄になりますよ。最初からやってみてはいかがかな?」
「よし、やってみるか。俺が最初だな。『#なった、なった、じゃになった。当家のむこ殿、じゃになった。』次、竹だ。」と松っさん。
「#長者になーられた。」と竹さん。
「そそっかしいですね。それは梅さんのせりふですよ。見てごらんなさい、言いそびれて口を開いたままではないですか。かわいそうに。もう一度最初からです。」と、ご隠居さん。
「#なった、なった、じゃになった。当家のむこ殿、じゃになった。」
「#なんのじゃになーられた?」
「#ひんじゃ(貧者)になーられた。」
「ひんじゃ?梅さんは婿殿を貧乏商人(あきんど)にするつもりですか。おめでたい席ではもっての他です。二度と言ってはいけませんよ。」とご隠居さんは念を押しました。
「時間がありません。道々稽古しながら行きます。色々ありがとうございました。失礼します。」と松っさん。
三人は、婚礼が行われる場所に向かいました。宴(うたげ)の最中、歌や、踊りや、祝辞(しゅくじ)で、新郎新婦は祝福されます。さて、松さん、竹さん、梅さんの出番となりました。まずは松さん。
「手前ども、松、竹、梅。三人合わせて松竹梅です。しばし皆さん、お付き合いの程を。#なった、なった、じゃになった。当家のむこ殿、じゃになった。」松っさん。大成功。「次、竹。」
「任せろ。」竹さんが続きます。「#なんのじゃになーられた?次、梅。」
でも梅さんはぼーっとしてしまって、せりふが思い出せません。
「そう、うん・・・えーと、うん・・・おお、そうだ!思い出した。ううん・・・
#じゃ・・・じゃ・・・もうじゃ(亡者)になーられた!」
もういけません。とんでもないことになってしましました。(kudo)