夕映え長者

fan むかし、むかし、ある所に、お金持ちの地主がおりました。何反もの田んぼを持ち、立派な屋敷で暮らしていました。春になると、田植え時には、沢山の人を雇いました。ある年、でめんとりたち(日雇い労働者のこと)は朝から晩まで田植えをしていましたが、太陽が山の後ろに沈みかける頃になってもまだ終わりませんでした。
長者は丘の上に立って怒鳴りつけました。
「何をもたもたしている。急げ!日が沈むぞ!」
日が沈みかけようとした時、長者は扇(おうぎ)を片手で開くと、太陽に向かって叫びました。
「沈むな!日よ再び昇れ!」
あら、不思議!太陽は動きを止めました。村中で拍手喝采が起きました。まだ太陽が照っているので、村人は仕事を終えることができました。
日が沈むのを止めた長者はいつしか「夕映え長者」と呼ばれるようになりました。

ある年のこと、村は旱魃(かんばつ)に見舞われました。田んぼは日照りでカラカラになり、稲も水不足で枯れ始めていました。
長者は途方に暮れ、数日間、湖のほとりに立つと、天に向かって雨乞いをしました。
「竜神さま、私の田んぼに雨を降らせてください。そうしてくれたら、私の娘を一人差し上げます。」
すると、間もなく、雨が激しく降り出し、田んぼは水で一杯になりました。稲は息を吹き返しました。
長者には三人の心優しい娘がおりました。長女は、父親のなやみを知り、竜神に身を捧げる決意をしました。
「約束を破るようなことがあれば、家族だけでなく村中に不幸が訪れます。みんなのために命を預(あず)けます。」
このことをふと耳にした次女が二人の前に駆け寄りました。
「お姉さんは、この家の跡取りです。私がお姉さんの代わりに生け贄になります。」
二人とも我が身を捧げる強い決心があるものの、結局どちらが行くか決まりませんでした。
ある晩、三女が置き手紙を残して、こっそり家から出て行きました。

〜話を聞いてしまいました。私が竜神さまに身を捧げます。〜

三女は懐(ふところ)に観音像を秘めていました。湖に来ると、娘は両手に小さな観音像を握って経を唱え始めました。しばらくすると、大きな竜が湖面に現れ、娘を呑み込もうとしました。竜が大きく口を開けた瞬間、観音像がその口の中に飛び込みました。すると竜はおとなしくなり、娘に話しかけました。
「私はむかし、お前の祖先の所で働いていた者だ。罪を犯し、この湖に投げ込まれ竜になった。お前の慈悲と優しい心のおかげで、いま天に昇ることができる。いいことを教えてあげよう。山の向こう側の村に行けば、お前は幸せになれる。」
そう言うと、竜は天に昇っていきました。
娘は、竜に言われた通り、山の向こう側の村に行き、ある裕福な家で女中として働き始めました。やがて、娘はそこの息子に見初(みそ)められ、所帯を持ち、幸せな生活を送りました。

sunrise 長者はまもなく自分の不徳を忘れると、うぬぼれ始めました。湖上の白鳥を見て、弓で射ようとしました。村人の「そんな愚かなことは止めてください。」という説得にも耳を貸さず、こう叫びました。
「馬鹿者め!私に神罰などあたるわけがない。私は、夕日を止められるのだ。」
長者は白鳥に向かって矢を放ちました。矢は危うく白鳥に当たりそうになりましたが、そのまま無事、北の空に飛び去りました。
「あの鳥はお社(やしろ)のお使いに違いない。」村人たちはひそひそ話し合いました。
その後、長者は不幸に見舞われ始めました。
長者は、自分の金銭を埋めることにしました。ある晩、数人の男を使って山の斜面に大きな穴を掘らせ財産を埋めさせました。そして、とんでもないことに、秘密を漏らさないよう埋蔵に携わった人を毒殺してしまいました。
長者の家族や親戚は次から次へと呪われて行きました。家が火事になったり、おかしな病気にかかったり、気が狂ったり、自殺したり、いろいろでした。
長者自身も大病を患い、まもなく亡くなりました。
長者のお葬式は大変質素なものでした。村人は、たたりを恐れ、誰も参列しませんでした。やがて二人の娘も病気になり息を引き取った、と言うことです。(Kudos)

The Rising Sun millionaire