
天狗の瓢箪
むかし、むかし、ある所に博打(ばくち)人がおりました。
ある晩のことです。賭け事で有り金全部すってしまいました。打ちひしがれて帰る途中、大声で誰かに呼び止められました。辺りを見回すと、高い松ノ木に天狗がおりました。
「博打人、今日も負けか。」
「誰かと思ったら、天狗さんですね。負けちゃいませんよ。ちょっとお金を貸しただけですよ。」博打人は自分の負けを認めたくありませんでした。
「は、は、は。」と天狗は笑いました。「ところで、博打人、世の中で一番恐いものは何だ。」
「うんーん。そうだ。饅頭だ。饅頭のことを考えただけで息ができなくなる。ああ、饅頭恐い。」
「天狗さんは、何が一番恐い。」
「そうだな。あれだ。銃の音じゃ。あれは恐い。」
いたずら好きの天狗は、博打人を驚かそうと、木の上から、男目がけて饅頭を投げ始めました。
「何と言うことを。卑怯な。何をする。俺を殺す気か。」
博打人は、初め恐がったふりをしましたが、饅頭を次から次へと食べ始めました。
思う存分、饅頭を食べ終わると、博打人は大声で、銃の音を真似ました。
「バン!」
天狗は、音に驚き山の方へ飛んで行ってしまいました。
「は、は、は。馬鹿な奴。」
天狗が座っていた枝を見上げると、天狗が忘れていった瓢箪がありました。欲しいものが何でも手に入ると言うものです。
「酒、出て来い。肴出て来い。」
博打人は、松に木の下に座って、真夜中まで楽しみました。(2004.7.29)