
三つの壺
むかし、むかし、ある商家で働いている欲深い男がおりました。
ある日のこと、たまたま墓地のそばの松の大木(たいぼく)の前を通りかかると、誰かに呼ばれたような気がしました。
「おい、そこの男! 金貨が詰まった壷が三つ、欲しくないか?」
男はすぐに足を止めて見まわしましたが、誰もいません。すると、また同じ声が聞こえてきました。
「金貨が入った3つの壺はいらんかな?」
驚いたことに、声は、人ではなくその松の木からでした。欲の深い男は松の木に向かって答えました。
「そんなおいしい話、断(ことわ)るわけがないだろう。どこにあるんだ?」
「家に帰ってみろ。お前の家の納屋に壺が三つあるから。」
男は急いで戻ると、すぐ小さな壺を三つ見つけました。早速、最初の壺のふたを開けました。あふれんばかりの眩(まばゆ)い金貨を目の当たり(まのあたり)にして大満足でした。
次に開けた壺にも満足しました。しかし、最後の壺を開けると半分しか入っていません。男は、中を見ながら、この壺もあとの二つの壺と同じように金貨で一杯にしなければ、と思いました。まず手始めに、金目(かねめ)のものを売って金貨に換えると壺に入れました。しかし、壺は相変わらず半分のままです。
それからと言うもの、男の心は、壷を眩い金貨で一杯にしたい、という邪念に取り付かれました。男は、食事から着物にいたるまで、お金を貯めるために切り詰めました。自分だけでなく、家族にも一切の贅沢を許しませんでした。蓄えは全て壺に投げ込まれましたが、貪欲な壺は、一向に一杯にはなりません。相変わらず、半分のままでした。
男は給金を上げてもらおうと主人に頼みました。
「家族に世間並みの暮らしをさせたいので給金を上げてください。」
給金が上がっても、男は幸せではありませんでした。給金を全部壺に入れても、壺は相変わらず半分のままです。ついには妻も逃げ出し、男は痩せ細り、骨と皮だけになってしまいました。
ある日、主人は男のみじめな様子を心配して、こう言いました。
「どうしたんだ?数か月前までは、お前の給金は人並みではなかったかもしれないが、今よりも幸せで健康そうに見えたぞ。今は、収入が増えたにもかかわらず、顔色はすぐれず、病人のようだ。お前、まさか、あの不吉な金貨の壺を持っているのではないだろうな。あの壺を手にした者は、お前のようにどうしようもなくみじめになる、という言い伝えがある。もしそうなら、直ちに処分したほうが身のためだぞ。」
男は、やっと自らの愚かさに気づき、松の木の所へ急ぎ、
「壺は返します。もうこりごりです」と言いました。
家に帰ってみると、あの三つの壺は、男が苦労して集めたお金を入れたまま、もう消えていました。でも男は、とてもほっとしました。
もしかして、あなたの家とか、あなたの心の中に、不幸をもたらす壷があったりして・・・(Kudos)