とんぼ長者

sake むかし、むかし、お百姓さんが、山の畠で働いていました。だいぶ働いたので、切り株に座って一休みしていました。すると、何かが、藪の中で動いていました。それは、蜘蛛の糸に絡まったトンボでした。逃げようと必死にもがいていました。
「かわいそうに。今助けてやるからね。」と、お百姓さんはトンボを蜘蛛の巣からはずしてやりました。トンボは、どこか遠くに飛んで行きました。
お百姓さんは、眠くなったので草の上で眠りました。夢を見ました。トンボにお酒をもらう夢でした。
「起きてください。風邪を引きますよ。」と、お百姓さんをさがしに来た奥さんが言いました。
「不思議な夢を見たな。」お百姓さんは奥さんに夢で見たことを話しました。すると、何処からとなくお酒の香ばしいにおいがしてきました。
二人は、そのにおいのする方に行って見ました。すると、大きな岩の下から、お酒が湧き出している金色の泉があるではありませんか。
お百姓さんは竹筒にお酒を入れました。
家に帰る途中、お百姓さんは足を洗いに小川におりました。すると小川の中で何かが光っているではありませんか。
「こりや、砂金だ。」とお百姓さんは驚きの声をあげて、奥さんを呼びました。
二人はざるで砂金をすくってみました。幾らすくっても砂金はなくなりません。
お百姓さんは、その砂金で樽を沢山買うと、その中に泉の酒を詰めて、町で売ることにしました。まもなくお百姓さんはお金持ちになりましたが、何か足りない気がしました。子供がいません。
「トンボさま。どうか私たちに子供を授けてくだされ。」とお百姓さんは心の中で祈りました。
ある晩のことです。戸口を叩く音がしました、
「どちらさまですか。」と、おかみさんが開けると、そこには可愛らしい女の子が立っていました。
「道に迷ってしまいました。どこに行ったら良いか途方に暮れていました。帰る家もありません。トンボの後を追ってきたらここに着きました。」
「何と言うことじゃ。トンボが我々の願いをかなえてくれたのに違いない。」
女の子は、娘としてお百姓さんの家に住むことになりました。
数日経ったある夜のことです。お百姓さんがかまどの焚き木を取りに出かけると、数人の男が小川の砂金を盗んでいました。
「ど、どうしよう。」お百姓さんは家に駆け戻ると、奥さんと娘に言いました。
「そんなに心配しなくても大丈夫です。私に良い考えがありますから。」と、娘さんは米が一杯はいった大きな釜を持って小川に行きました。
tonbo 米を小川の水で洗うと、小川は真っ白になって、何も見えなくなってしまいました。
「何も見えねえ。酒の泉のありかもわかってるから、そっちに行こう。」と、泥棒の親分が言うと、樽を盗んで、山を登りました。
「どうしよう。」お百姓さんは恐ろしさで真っ青になって言いました。
「そんなに心配しなくても大丈夫です。私に良い考えがありますから。」と、娘さんは油の入った壷を持って、近道して山に登りました。そして、油を泉の周りに撒いておきました。
遅れてやって来た泥棒たちは、
「おお良いにおいだ。考えただけでよだれが出てくる。」と言いました。
泉の近くにやって来ると、泥棒達は滑って谷に落ちてしまいました。
「本当にありがとうよ。」とお百姓さんは娘さんに言いました。
「どういたしまして。親を助けるのは子供として当たり前のことです。」
お百姓さんは、一生懸命働いて、いつしか「とんぼ長者」と呼ばれるようになりました。めでたし、めでたし。(2004.1.25)

Tombo