醜男(ぶおとこ)

Mask 昔、昔あるところに一人の若者がおりました。頭がよく、性格もいい若者でした。でも娘達は若者には見向きもしませんでした。とても大きな鼻、小さな目、それに大きな口。一口で言えば醜男だったのです。
親の心配は息子の結婚相手のことでした。父親曰く、
「息子にはなんとしてでも所帯を持ってもらいたいものだ。とはいっても結婚は無理かもしれんなあ。」
ある日のこと、隣村の長者が美しい娘にふさわしい男前の婿を探していると言ううわさが流れてきました。父親は妻に言いました。
「いい考えが浮かんだ。もう息子のことを悩まなくて済むぞ。今しばらくの辛抱だ。」
父親は長者の家を訪ね、こう言いました。
「うちの倅(せがれ)はこの国一番の男前です。娘さんにふさわしい男前の婿どのをお捜しなら、うちの倅はそれにうってつけの男です。」
「それは有り難い。さっそく娘に会って頂こう。ひとつ息子さんにご足労願おうか。」長者は答えました。

醜男が長者さんの所へ出かける日がついにやって来ました。その朝、父親は息子に声を掛けました。
「面をつけて長者さんの所に行き、こう言いなさい。『私はこの国一番の男前です。それ故、この顔に万一のことがあってはいけないと、いつも面をつけております。』とな。お前がそう言うとすぐ天井から声が聞こえてくるだろう。」
「それから?」息子は心配して尋ねました。
「それからどうなるのかわしにも分からん。どうしたらよいかその場で考えてみるんだな。さあ、出かける時間だ。」
面をつけて、一張羅(いっちょうら)を身に着けた若者は長者の前に座り、こう言いました。
「おこがましく聞こえるかもしれませんが、私は、この国一番の男前です。それ故、この顔に傷がつくといけないので、いつも面をつけております。」
その時、天井から声がしました。
「若者よ、よく聞け。わしは鬼だ。わしが長者の美しい娘と結婚することになっている。お前が娘と結婚したいというなら、命はないぞ。」
「お、お助けを!まだそうと決めたわけではありません。お許しを。」
「お許しだと?なんと憎たらしい奴よ!お前はたった今、この国一番の男前とぬかしおったな。お前の命と、お前のその顔とどっちが大切だ。」
長者はこれを聞くと、そら恐ろしくなって若者の耳元にささやきました。
「顔より命だ。」
若者は鬼に言いました。
daughter 「鬼さま、顔より命の方が大切です。お助け下さい!命だけは、どうか!」
「そう言うなら、お前のその顔を吸い取って、かわりに命だけは助けてやる。」こう言うと、鬼らしき者が若者の前に現われると、面をはぎ取り、顔から美しさを吸い込み始めました。
「あうぅ!痛い!顔が痛い。」
鬼はあっという間に終えると部屋を出て行きました。部屋の中に残ったのは長者と醜い顔の若者でした。
若者は両手で顔を覆って泣き出しました。
「どうしよう?こんな顔ではもう生きていけない。いっそ死んでしまった方がましだ。こんな顔になる前に男前の顔をあなたと娘さんに見せるべきだった。こんなことが起こるとも知らず、ここに来たとは何と浅はかだったことか。」

長者はたいそうこの醜男を気の毒に思いました。
「お前に、何から何までやることにしよう。わしの娘も、わしの全財産もな。それから二度と鬼が入ってこられないように頑丈な家を建ててあげよう。」
醜男はみごと長者の美しい娘を射止め、末永く一緒に暮らしましたとさ。めでたし。めでたし。
さて、あの鬼は誰だったのでしょうか。もう、おわかりですね。(Kudos)

ugly Man