うぐいす

むかし、むかし、ある所に一軒のお茶屋がありました。美しい娘さんが、毎日、お茶を買いに来ました。店の主人は、どこに住んでいるのか気になり、ある日、あとをつけてみることにしました。
娘さんは、森を抜け、畑を通って、立派な屋敷に入って行きました。
「ご免下さい。入ってもよろしいでしょうか。」と表戸をたたきました。
娘さんは、戸を開けて、主人を部屋に通し、お茶を出してくれました。
「お茶屋さん。お出かけ下さりましてありがとうございます。お茶でも召し上がってのんびりして下さい。私、ちょっと出かけてまいりますので、しばらくここでお待ち下さい。この家には、他に部屋が十二ございますが、この部屋でお待ち下さい。くれぐれも他の部屋には入らないようにして下さい。それでは行ってまいります。」
入ってはいけないと言われると、いっそう見たくなるものです。
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最初の部屋を、こっそり開けてみました。睦月(1月)の部屋です。神社にお参りしている人たちがいます。子供たちが、羽根つきをし、お餅を食べています。

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二番目の部屋を、こっそりと開けてみました。如月(2月)の部屋です。悪い鬼を追い払おうと豆まきをしている人たちがいます。子供たちが、雪だるまを作っています。

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三番目の部屋を、こっそりと開けてみました。弥生(3月)の部屋です。ひな祭りでかわいい雛人形を並べている人たちがいます。子供たちが、学び舎を去るのを惜しんで泣いています。

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四番目の部屋を、こっそりと開けてみました。卯月(4月)の部屋です。桜の木の下で、飲んだり歌ったりしている人たちがいます。子供たちは新学期が来たのを喜んでいます。

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五番目の部屋を、こっそりと開けてみました。皐月(5月)の部屋です。端午の節句にこいのぼりを揚げている人たちがいます。子供たちが、独楽で遊んでいます。

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六番目の部屋を、こっそりと開けてみました。水無月(6月)の部屋です。田植えで忙しい人たちがいます。子供たちが、晴れますようにと照る照る坊主を作っています。雨の日が多いからです。

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七番目の部屋を、こっそり開けてみました。文月(7月)の部屋です。花火を見ている人たちがいます。子供たちが、七夕に、竹の葉につるした短冊に願いを書いています。

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八番目の部屋を、こっそり開けてみました。葉月(8月)の部屋です。お盆で盆踊りをしている人たちがいます。子供たちが、川で泳いだり、すいかを食べたりしています。

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九番目の部屋を、こっそり開けてみました。長月(9月)の部屋です。田んぼで米の収穫に大忙しな人たちがいます。子供たちが、栗の実や梨を食べています。

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十番目の部屋を、こっそり開けてみました。神無月(10月)の部屋です。木々が紅葉しています。子供たちが、さつまいもを焚き火で焼いて食べています。遠足に出かけるのにもってこいです。

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十一番目の部屋を、こっそり開けてみました。霜月(11月)の部屋です。川で魚をつかまえている人たちがいます。七福神の一人、恵比寿様のお祭りがあります。雪が降り始めたところもあります。

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最後の部屋を、こっそり開けてみました。師走(12月)の部屋です。餅をついて、お正月のごちそうの用意をしている人たちがいます。子供たちが、こたつにあたっておしゃべりしています。

娘さんが戻ってきて、お茶屋さんが部屋を覗いているのを見てしまいました。娘さんはうぐいすに姿を変えると空高く飛んで行ってしまいました。
お茶屋さんが立っていたのは、娘さんの屋敷ではなく、人里離れた山奥でした。(Kudo)


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