
山ぶどう
むかし、むかし、ある所に三人の娘と病気の母が住んでいました。そこは、冬になると大雪に覆われました。
今際(いまわ)の母は、娘を枕下に呼び寄せると言いました。
「病気がひどくて、もう長くはないでしょう。魔法のぶどうを食べればよくなるかもしれません。誰か、山からぶどうを取ってきておくれ。」
「おかあさん、私が行ってくるわ。」と長女が言いました。
母は、どこにそのぶどうの木があるか娘たちに教えました。
「山に近づくと、雪女が出てくるでしょう。理由(わけ)を話して、話をよく聞きなさい。言われたとおりにしなさい。決してさからってはいけません。」
「わかったわ。そうするわ。」と言うと、長女は雪の中、家を出かけました。
山のふもとに来ると、雪女が現われ、いきさつを話しました。
「行きなさい。行きなさい。行きなさい。」と雪女は言いました。
長女は急ぎ足で山に向かって行きました。すると、
「戻りなさい。戻りなさい。戻りなさい。」長女が少し行った所で、雪女が言いました。
長女は、逆らってはいけない、と思い、立ち止まり急いで戻ってきました。
「行きなさい。行きなさい。行きなさい。」「戻りなさい。戻りなさい。戻りなさい。」
「行きなさい。行きなさい。行きなさい。」「戻りなさい。戻りなさい。戻りなさい。」
「行きなさい。行きなさい。行きなさい。」「戻りなさい。戻りなさい。戻りなさい。」
長女は、とうとう腹を立て、言う事を聞かないで、山に向かい続けました。辻道までくると、雪女が現れ、あっという間に、飲みこんでしまいました。
二人の娘と病気の母は長女の帰りを待ちましたが、二度と戻ってきませんでした。
「お母さん、私が行ってくるわ。」と次女が言いました。
山のふもとに来ると、雪女が現われ、いきさつを話しました。
「行きなさい。行きなさい。行きなさい。」と雪女は言いました。
次女は急ぎ足で山に向かって行きました。すると、
「戻りなさい。戻りなさい。戻りなさい。」次女が少し歩いた所で、雪女が言いました。
次女は、逆らってはいけない、と思い、立ち止まり急いで戻ってきました。
「行きなさい。行きなさい。行きなさい。」「戻りなさい。戻りなさい。戻りなさい。」
「行きなさい。行きなさい。行きなさい。」「戻りなさい。戻りなさい。戻りなさい。」
「行きなさい。行きなさい。行きなさい。」「戻りなさい。戻りなさい。戻りなさい。」
次女は、とうとう腹を立て、言う事を聞かないで、山に向かい続けました。辻道までくると、雪女が現れ、あっという間に、飲みこんでしまいました。
三女と病気の母は二人の帰りを待ちましたが、二度と戻ってきませんでした。
「お母さん、私が行ってくるわ。」と三女が言いました。
山のふもとに来ると、雪女が現われ、いきさつを話しました。
「行きなさい。行きなさい。行きなさい。」と雪女は言いました。
三女は急ぎ足で山に向かって行きました。すると、
「戻りなさい。戻りなさい。戻りなさい。」三女が少し歩いた所で、雪女が言いました。
三女は、逆らってはいけない、と思い、立ち止まり急いで戻ってきました。
「行きなさい。行きなさい。行きなさい。」「戻りなさい。戻りなさい。戻りなさい。」
「行きなさい。行きなさい。行きなさい。」「戻りなさい。戻りなさい。戻りなさい。」
「行きなさい。行きなさい。行きなさい。」「戻りなさい。戻りなさい。戻りなさい。」
三女は、何度も何度も、行ったり来たりしました。決して逆らいませんでした。
「行きなさい。行きなさい。行きなさい。」「行きなさい。行きなさい。行きなさい。」
「行きなさい。行きなさい。行きなさい。」「行きなさい。行きなさい。行きなさい。」
「行きなさい。行きなさい。行きなさい。」
三女は、森まで歩きつづけました。
「こっち。こっち。こっち。」三女は声のする方に行きました。
たわわにぶどうがなった大きな木がありました。
三女は、ぶどうの実を数粒とると、急いで家に戻りました。
「お母さん。ぶどうを取って来ました。食べて下さい」
「娘や。ありがとう。」
ぶどうを食べると、母は病気も治り、元気になりました。
娘と母は幸せに暮らしました。(2004.8.6)