山の神と小僧さん

lunch box むかし、むかし、あるところに母と息子がおりました。十五歳になった時、息子は母親に言いました。
「お母さん、今の私があるのはお母さんのおかげです。十五歳になったからには、お母さんを助けて働きたいと思います。」
ある日、息子はお母さんが作ってくれたお弁当を持って、山へ薪(たきぎ)を取りに行きました。お弁当を大きな石の上に置いて、薪を集めました。すると、どこからとなく見知らぬおじいさんが現われると、勝手にお弁当を食べ始めました。おじいさんは、貧しくて食べ物がないんだな、と思いました。そしてお弁当を食べさせてやりました。
「おじいさん、遠慮しないで。」

「ありがとね。おなかがペコペコだ。」お弁当を食べながら言いました。
薪を背負って家に帰ると、お母さんに話しました。
「いいことをしたわね。明日はお弁当を二つ作ってあげるわね。お前とおじいさんに。」
次の日、お弁当を二つ持って山に出かけました。同じ大きな石の上にお弁当を置き、薪を集めました。するとあのおじいさんがどこからとなく現われ、お弁当を二つとも食べ始めました。
おじいさんは、貧しくて、ものすごくお腹がすいているんだ、自分は家に帰れば食べられる、と思って子供はおじいさんに言いました。
「おじいさん、遠慮しないで。」
「ありがとね。お腹がペコペコだ。」おじいさんは、そう言って全部食べてしまいました。
また次の日も、お弁当を二つ持って、薪取りに山に出かけると、またおじいさんが出てきて言いました。
「お前さん、お弁当ありがとう。いいことを教えるから、よくお聞き。実は、私はこの山に住んでいる神様なのだ。」
子供はおじいさんの前に腰をおろし、耳を傾けました。
「西に行けば、出雲という所がある。そこにはいままで見たことのない素晴らしい神社がある。その神社にお参りに行ってごらん。道中、幾人かの人にお願いをされるであろう。その願いを聴いて、神様に頼んでごらん。」と言うと、おじいさんは消えてしまいました。
家に帰ると、お母さんに話しました。そして旅の準備をしてくれました。それから長者さんの家を訪ねて長旅のお金を工面してもらいました。
「出雲の立派な神社のお参りに参ります。時間とお金がたいそうかかりますので、お金を貸してもらえないでしょうか。」
「それはすばらしいことだ。貸してやるよ。ところでお願いがある。娘が三年患っている。私に代わって娘の回復を祈って来てくれないかな。」
「かしこまりました。」子供は大金を借りて、出雲に旅立ちました。
歩き続けて、小さな宿屋に泊まりました。
「どこに行くのかな。」と宿屋の主人が尋ねました。
「出雲の神社にお参りに行きます。」
「それはすばらしい。お願いがあるのだが。立派な松の木が3本あるが、2本が枯れ始めている。原因がわからない。私の代わりに木の回復を神様にお願いして来てくれないかな。」
「かしこまれました。」
angel 翌日、数時間歩いて行くと、大きな川に来ました。渡るのに舟も橋もありませんでした。どうしたらいいか困っていると、見知らぬおばあさんがやって来ました。
「お前さん、どこへ行くんだい。」
「出雲の神社にお参りに行きます。」
「それは素晴らしい。お願いがあるのだが。実を言うと、私は人間ではなく、天使なのです。千年以上、この地上で暮らしていますが、天国に帰る方法がわからないのです。私の代わりに天国への帰り方を神様にお願いしてくれ来てくれないかな。」
「かしこまりました。」
「それでは、私の肩につかまりなさい。」
天使は若者を乗せて向こう岸まで飛びました。数時間ほど歩くと森の中の美しい神社にやって来ました。驚いたことに、入り口にお弁当をやったあの山の神様が立っていました。
「神社にようこそ。道中幾人かに願いを頼まれなかったかな。」
まず、長者の娘の病気のことを話しました。
「簡単なことさ。長者さんは、村の若者を集めて、娘に好きな若者に盃(さかずき)を渡させることだ。その若者は幸運を得て、娘と結婚するのだ。そうすれば、まもなく娘は元気になる。他に願いを頼まれなかったかな。」
枯れた松の木のことを話しました。
「簡単なことさ。枯れた木の下に金の入った壷が埋まっている。おじいさんは掘り出して、一つを他人にあげればよい。そうすれば、二本の松は生き返り、また美しく実を持つ。」
天国への帰り方の分からない天使のことを話しました。
「簡単なことさ。あの人は鉛の重い首飾りをしている。それが重過ぎて天国に飛べないのだ。あの人はそれを人にあげればよい。」
話を終わると、おじいさんはあっという間に消えてしまいました。神社を訪ね、自分の幸せとお母さんの健康を神様にお祈りしました。
家への帰り道、大川の近くに立っている天使を見つけました。
「お願いしてくれた。」
「勿論。教える前に、向こう岸まで送って下さい。」若者は、天使の背中に手をかけて川を渡りました。
「髪飾りを人にあげれば、天国にいけるよ。」
天使は、首飾りを子供に渡すと、天国に舞い上がりました。
若者は、首飾りを首にかけ、数時間歩くと、前に泊まった小さな宿屋に来ました。
主人に老人から言われたことを話しました。枯れ木の根っこを掘ると金の入った壷が二つ出てきました。その一つを若者にあげました。二本の木は、たちまち、葉、芽、実が沢山出てきました。
若者は、首飾りをし、壷を脇に抱え、長者さんの家を訪れました。
「お願いしてくれたかな。」
「勿論。」長者さんに老人から言われたことを話しました。
wedding 長者さんは村の若者を集め、娘に好きな若者に盃(さかずき)を渡させました。娘はすぐその若者にそれを渡しました。でも若者は受け取ろうとしませんでした。
長者さんは若者に言いました。
神様のご指示じゃ。受け取らなくてはならない。」
若者が盃を受け取るやいなや、娘の顔色がたちまち良くなり、うれしく踊り始めました。
若者は娘と結婚し、幸せに暮らしました。(Kudos)

yamakami