3枚の札

disiple むかし、むかし、山のふもとにお寺がありました。そこに和尚さんと小僧さんが暮らしておりました。
ある日、和尚さんは小僧さんに言いました。
「明日は春分だから、山からきれいな花を取ってきておくれ。」
「わかりました。」と言うと、和尚さんから3枚の札を渡されました。
「途中で、万一恐ろしいものにあったら、欲しいものを言って、この札を1枚投げつけなさい。『海』と言えば、海が出てくる。それに驚いている間に、逃げればいい。わかったな。」
「わかりました。」
山の中に、きれいな花を見つけました。しかし、山の奥に入っていくと、辺りはもう真っ暗になってきました。暗くて帰り道がわかりません。数時間山をさまよい歩き、ようやく遠くに家のあかりが見えました。
「ありがたい。助かった。」
家の戸を叩いて、大声で、
「ごめんください。暗くて迷ってしまいました。今夜泊めてください。」と言いました。
「お入り。」
戸を開けると、山姥(やまんば)が囲炉裏のそばに座っていました。
「入って温まりなさい。そこに立っていないで、お入り。」
山姥はとても親切でした。恐ろしくて、言われるままでした。怒らせると食べられてしまう、と思ったからです。夜中寝ている間もそばにいました。
小僧さんは山姥に言いました。
「おしっこが出ちゃうよ。」
「我慢するんだよ。」
「我慢できない。」
「じゃ、すぐ帰って来るんだよ。逃げたりしたら、捕まえて食べちゃうぞ。」と言うと、山姥はひもの端を小僧さんの腰に縛りつけ、もう一方を手に持ちました。小僧さんはこっそりと紐をはずすと便所の柱に縛り付けました。そして便所の小窓から抜け出しました。しばらくすると山姥にわかってしまいました。
「怒ったぞ。食べちゃうぞ。」と言うと追いかけ始めました。
山姥にやがて捕まえられてしまうと、小僧さんは、あの3枚の札のことを思い出し、こう言って1枚を山姥に投げつけました。
「大きな川。大きな川。」
すると、大きな川が小僧さんと山姥の間に突然現れました。しかし山姥は気にすることなく追いかけてきました。
小僧さんは2枚目を、こう言って投げつけました。
「大きな山。大きな山。」
すると、大きな山が小僧さんと山姥の間に突然現れました。しかし山姥は気にすることなく追いかけてきました。
小僧さんは最後の札を、こう言って山姥に投げつけました。
「大きな火。大きな火。」
すると、大きな火が小僧さんと山姥の間に突然現れました。しかし山姥は気にすることなく追いかけてきました。
どんどん走っていくとお寺の前に立っていました。
「和尚さん。助けて!山姥が追いかけてくるよ。助けて!!戸を開けて。」
小僧さんは、戸を叩きました。
card 「待て。そんなに慌てるな。便所に行ってから開けてやる。」と和尚さんはゆっくり言いました。
「早く!!! 入ってきちゃうよ。開けて! 開けてよ!」
「落ち着いて。慌てない。今手を洗っている。」
和尚さんがやっと戸を開けると、小僧さんを井戸桶の中に押し込み、井戸の上につるし上げました。
「和尚。子供はどこだ。この家に入ったぞ。」
「見なかったな。」
「見たぞ。」
「見なかったな。」
「見たぞ。」
「どうぞ、どこでもお探しを。」
山姥は寺中を探しましたが、小僧さんは見つかりませんでした。最後に井戸の中を覗くと、自分の顔が映りました。
「見つけたぞ。」山姥は井戸に飛び込みました。
和尚さんは井戸を大きなふたを被せ、その上に大きな石を置きました。
山姥は井戸から二度と出られず、そこで命を落としました。(Kudos)

yamanba