
謎めいた男の子
むかし、むかし、ある所に力持ちの大男が住んでいました。男は自分の強さが自慢で、村の相撲大会でも負けたことはありませんでした。男は、もっと強い男と出会って、相撲を取りたいと思いました。そんな時、江戸で相撲大会が開かれることを耳にして、大男は参加しようと江戸に向かいました。
江戸見物をしている大男を見て、人々は家に逃げ込みました。
「怪物だ。怪物がやって来る!逃げろ!」
男は、自信満々、大声で歌いながら、木を引き抜いたり、通りの壁や塀を蹴り倒したりしながら、寺子屋の前を通りかかりました。
すると、男の子が寺子屋から出てきて怪物に言いました。
「おい、お前!うるさいぞ!静かに歩け!」
「生意気ながきめ!」
そう言うと、子どもに向かっていき、足蹴にしようとしました。
しかし、子どもが素早く身をかわしたので、男は前のめりに倒れました。子どもは大男の脚を掴むと、空高く持ち上げ、その巨体を岩のように投げました。男は地面に落ちると意識を失ってしまいました。
「何と強い子だ!」
それを見ていた人々は歓声を上げました。
男は、しばらくして意識を回復したものの、腰の骨を折ってしまったので、動けませんでした。
翌日、番屋に運ばれた男は、番人に男の子のことを話しました。
「あんな強い子は初めてだ。もう相撲大会にも出られない。」
「江戸にそんな強い子がいるとは驚きだ。」
番人は、江戸のあちこちに次のような札を立てました。
次の相撲大会では、相撲取りに劣らぬほど大力の子どもがいれば、出場を許す。
しかし、参加を申し出た子どもはなく、番人たちは江戸中を探し回りました。
「この辺には、そんな子どもはいません。」
番人に聞かれると、誰もがそう答えました。
やがて、人々は若き仏様が、野蛮な大男を懲らしめるためにやってきたのだと信じました。(kudos)
宇治拾遺物語「ふしぎな学生」より