精霊の導き(前半)

changer むかし、むかし、ある町に、けちで欲ばりな年寄りがおりました。商いを一緒にしていた親友を七年前に亡くしからは一人暮らしの生活を送っていました。かつては立派な商人でしたが、それからというもの、誰に対しても心を開くことはありませんでした。
赤くにごった目、細くとがった鼻、血の気のない唇、冷酷さが顔にあらわれていました。通りですれ違っても話しかける人はいませんでした。子供や物乞いでさえもお金をせびることはありませんでした。でも、それは老人が望んでいることでした。要は人間嫌いだったのです。
ある大晦日の晩、老人は厚着をして、居間の囲炉裏で手を温めていました。
「叔父さん。こんばんは。お変わりありませんか。また正月が来ますよ。」老人の甥が思いがけなくやって来ました。
「くだらん!」
「正月はくだらん、と言うことですか。本気じゃないですよね。」
「本気さ。お前はお金もないのに楽しそうだが、どうしてだ。正月になると何かいいことでもあるのか。」老人は冷ややかに言いました。
「ありますよ。お金はありませんが、幸せです。」若者は明るく答えました。「叔父さんはお金があっても、つまらなそうですね。どうしてですか。」
「くだらん!」
「叔父さん、かっかとしないで下さい。叔父さんを家に招待しようと寄っただけです。一緒に夕飯を食べて、新年を祝いましょう。」
「くだらん!また歳をとるだけだ。お前はお前、私は私。好きなように新年を祝う。以上!」
「一人で食べるのは寂しいものです。叔父さん、家に来て一緒に食べましょう。」甥は説得を続けました。
「冗談じゃない!」
「どうしてですか。」若者は声を張り上げました。「どうして家に来られないのですか。」
「じゃ、どうしてお前は結婚した?」
「好きになったからです。」
「好きになった?馬鹿馬鹿しい!さあ帰った。おやすみ!」
「結婚する前も来たことはなかったですよね。」
「おやすみ!!」
「お金をもらおうなんて思っていません。ただおじさんと仲良くしたいだけです。」
「おやすみ!!!」
「どうしてそう頑固なんですか。叔父さんと喧嘩したくありません。叔父さんにやさしくしたいだけです。叔父さん、来年もよろしく!」
老人は、質素な食事を済ませると薄暗い部屋で寝床に入りました。

夢の中に、亡くなった親友が出てきました。男の体じゅうに巻かれた鎖が揺れていました。
男が言いました。
「これから、三人の精霊が現れ、お前に教えを授けるであろう。」
「体を鎖で巻かれているが、どうしたんだ。」老人は亡き友に尋ねました。
「これは、私が生前おかした罪の鎖だ。お前の鎖の長さと重さを知りたいとは思わないか。七年前、お前の鎖は、この鎖と同じ長さと重さであった。しかし今は、これよりずっと長く、ずっと重くなっている。よく聞け!私はここに長居はできない。お前にはまだ運命を変える機会と望みがある。」男は続けました。
「最初の精霊は明日一時、次の精霊は明後日の一時、最後の精霊はその次の日の正午に現れる。私はこれでお別れだ。幸運を祈る!」
老人は目を覚ましました。
「くだらん!!」

第一の精霊
spirit1 老人の寝室に入ってきたのは子供のようでしたが声は大人びていました。精霊は暗闇の中で全身から光りを発していました。
「あなたは、夢の中で親友が話していた最初の精霊ですか?」
「いかにも。」精霊はもの静かに答えました。
「あなたはどういう精霊ですか。」
「私は、お前の過去の精霊だ。起きて私について来なさい。」そう言うと、精霊は老人の手をしっかり掴みました。驚いたことに、二人は部屋の壁をスーと通りぬけると、空中を飛び、雪で覆われた田舎道に降り立ちました。
「あれ、これは・・・!ここは私が生まれた所で、子供時代をずっと過ごした所です。」
「この道を覚えているか。」
「覚えてますとも。目隠しをされても、歩けます。」老人は上機嫌で言いました。
老人には、どの家々、どの木々にも思い出があります。
次に二人が訪れたのは、小さな村の原っぱでした。そこでは数人の子供がかくれんぼをしていました。
「あのものたちはお前の過去の影法師だ。だから、あのものたちに私たちが見られる心配はない。」精霊が言いました。
「さようなら、また明日。」しばらくして、子供達は口々にそう言って帰りました。
子供達を見て、老人は嬉しくなりました。
今度は、精霊は老人を古い家に連れて行きました。暗闇の中、壁に凭れて(もたれ)て一人で外にいる男の子がいました。老人には、その男の子は昔の自分であるとわかりました。女の子が近づいて来ました。
「お兄さん。家に帰ろう。お父さんはもう怒っていないわ。もう恐くないわ。一緒にお正月を祝いましょう。」
「お前の妹は優しくて聡明な子だったな。」
「はい。その通りです。」老人は答えました。「でも子供を産んで死んでしまった。」
「その子がお前の甥だな。」
「そうです。」
「時間がない。急ごう!」そう言うと、精霊は、深刻そうに話をしている男女の所に連れて行きました。
若い男女が面と向かって座っていました。女が男に言いました。
「あなたが貧しかった時、私達は婚約したわ。でも今は、あなたはお金持ちで、私は貧乏。まだ私のことを愛していますか。」
若い男は無言でした。
「もう愛していないのね。お幸せに!」
女は、目に涙をため、手で顔を覆って、去って行きました。
「もう昔のことは見たくない。部屋に戻して下さい。」老人は叫びました。しかし、精霊は容赦なく別の場所に引き連れて行きました。
さっきと同じ女とその子が夫の帰りを待っていました。まもなく夫が子供に土産を持って帰ってきました。
夫は妻に言いました。
「ついさっき、お前の昔の友達が家の前に立っているのを見たよ。数日前に親友を亡くして、絶望のどん底にいるかのようだ。」

「もう昔のことは勘弁してください。帰して下さい!」
そう叫ぶと、老人は部屋に戻っていました。疲れと眠気で、老人は寝床までたどりつくと眠りに落ちました。

第ニの精霊
目を覚ますと、ほぼ一時でした。聞きなれない声がしました。
「おい、戸を開けろ。」
第ニの精霊は老人を甥の部屋に連れて行きました。
甥は居間で美しい妻と話をしていました。甥は叔父のことを話していました。
「ぜひ家に来てもらおうと思ってまた叔父さんの家に行ってきた。叔父さん曰く、『お正月はくだらない。』って。頑固で考えを変えようとしない。叔父さんを喜ばせるのは無理みたいだ。叔父さんにこの先悪いことが起きなければいいんだけれど。」
「叔父さんは、かなりのお金持ちですよね。私より幸せよ。」妻が言いました。
「幸せはお金では買えないもの。お金と幸せは関係ないんだ。叔父さんは、人にいい事をしたことがないんだ。叔父さんにとって生活を変えるなんてことは考えられないことさ。
「叔父さんのような人は好きになれないわ。」
「僕は叔父さんが好きだよ。気の毒に思うよ。だから、今日叔父さんの所に行って大晦日の食事に誘ったんだ。」
「ほんと、残念ね。叔父さんは美味しい食事を食べ損なったわね。」
「優しいこと言ってくれるね。毎年、大晦日にはこれから先も叔父さんを誘うつもりだ。来てくれるかどうかわからないけどな。叔父さん、いい正月を迎えられるといいな。」

老人は自分の部屋に一人戻っていました。二人の会話を立ち聞きしてとても幸せを感じました。疲れと眠気で、老人は寝床までたどりつくとすぐ眠りに落ちました。(Kudos)

精霊の導き(後半)


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